最新記事

核兵器

差し迫る核誤爆の脅威

2016年8月15日(月)16時35分
ジェフ・スタイン

 燃料漏れから大規模な爆発が起きれば、核弾頭が爆発する一触即発の危機だった。格納施設内にいた4人の作業員は、非常口からの避難を余儀なくされた。その後、指揮命令系統の乱れで遅れが生じ、決死の覚悟で緊急出動した技術者たちが事故現場に立ち入るまでに、すでに数時間が経過していた。

 間に合わなかった。ついに格納施設内で燃料爆発が起き、9メガトンという当時のアメリカで最強の威力を誇る核弾頭が爆風で空高く吹き飛び、30メートル離れた地上に落下した。「自分は何としても事故現場に行かねばならないと覚悟していた。その核弾頭でいつ核爆発が起きても不思議ではなかった」とピュリフォイは当時を振り返る。

 幸い、最悪の事態は免れた。安全装置が作動し、核爆発は起きなかったのだ。政府関係者の中には、大惨事に至らなかったのを良いことに、アメリカの核兵器は製造から30年以上経っても安全だと証明されたと豪語する者もいた。だがピュリフォイの危機感は消えなかった。「あの事故に関する記録を隅々まで読みあさって、身震いするほど恐ろしくなった」

 1961年には、ノースカロライナ州上空で米空軍のB-52爆撃機が空中分解し、積んでいた核爆弾2発が地表に落下する事故が起きた。「うち1発は起爆のために必要なすべてのステップが実行に移され、地上に落下した時点で爆発用のシグナルが送られていた」とシュローサ―は映画で語っている。「水爆の爆発を寸前で阻止したのは、たった一つの安全装置だ」

核の安全神話

 安全装置はきわめて簡素なスイッチだと説明したうえで、「万一あのとき起爆用の2本のワイヤーが接触していれば、核爆発が起きていた。そうなれば、この世の終わりだった」とピュリフォイは言う。広島に投下された原爆の267倍の威力がある4メガトンの核弾頭が爆発すれば、ノースカロライナ州全土が瞬時に壊滅し、北は1000キロ離れたニューヨークに至るまで、人体や作物の命を奪う放射能被害が広がっていたとされる。 

 アメリカ国家安全保障文書館の上級アナリストであるウィリアム・バーによると、当時、危機感を募らせたピュリフォイと同僚のグレン・ファウラーは、「高電圧の熱電池が爆発すること」により水爆が起爆する危険性をしきりに訴え始めた。二人は1970年代に入ると、国防総省に事故で焼け焦げた配電盤を持参して状況説明を行うなど、「安全対策は十分」だと信じきっていた政府高官にとっては耳障りな存在となっていった。「まるで国の研究所が自ら失態を暴露しているようで、憤慨する関係者もいた」とバーは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中銀デジタル通貨、トランプ氏禁止令で中国

ビジネス

日本製鉄、山陽特殊製鋼を完全子会社に 1株2750

ワールド

ノルウェーで欧州懐疑派政党が政権離脱、閣僚の半数近

ビジネス

日経平均は小幅に3日続伸、方向感欠く 個別物色は活
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中