ドイツ「最強」神話の崩壊
そして先月、ドイツ南部で1週間に4件の流血の惨事が起きた。まず18日、ビュルツブルク付近を走行中の列車内で、アフガニスタン難民の少年が、おので乗客を襲い5人が負傷。22日にはミュンヘンのショッピングセンターで、イラン系ドイツ人の少年が銃を乱射し、9人が死亡、35人以上が負傷している。
24日には、ロイトリンゲンのバス停で、シリア人の男が、なたで通行人を切りつけ、妊婦1人が死亡し、2人が負傷した。同日夜には、アンスバッハの飲食店で、シリア人の男が自爆して15人が負傷。イスラム原理主義組織によるドイツ初の自爆テロとなった。
大みそかの事件がAfDの躍進につながったように、今回の事件がAfDなどポピュリストに有利に働くのは間違いない。彼らにしてみれば、一連の事件は「メルケルの移民政策のせいでドイツはテロリストの標的になる」という主張の正当性を(一見したところ)示した。
今回の事件は、別の意味でもメルケルに打撃を与えている。4件の襲撃事件はいずれもドイツ南部で起きたが、うち3件はバイエルン州で起きた。同州の与党・キリスト教社会同盟(CSU)は、メルケル率いるキリスト教民主同盟(CDU)の地方政党的な存在だ。
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だが、ドイツは歴史的に地方分権が進んでおり、州議会の組織も大きい。そしてCSU党首であるホルスト・ゼーホーファー州首相は、メルケルに最も批判的な1人として知られる。このため政治評論家の間では、CSUがCDUとたもとを分かつのでは、という声も聞かれる。
現実にはそこまで行かないとの見方が強いが、メルケルが大きな圧力にさらされるのは間違いない。その場合メルケルは、政策を右寄りに軌道修正して党内の不満を封じ込むか、現在の方針を堅持して自らの政治生命を危うくするかの二択を迫られるかもしれない。
銃撃犯は極右政党支持者
いずれにしろ、メルケルが巧みに国内政治をコントロールできた時代は終わりに近づいている。彼女は政治的な死に抵抗する過去の遺物のようなものだ。しかしメルケルが政治の舞台を去ったら何が起きるかは、誰にも予想がつかない。
こうした大きな問題を考えると、今回の事件の真相が当初報じられたよりもやや複雑であることは見落とされがちだ。例えばミュンヘンのショッピングセンターの銃撃犯アリ・ダビド・ゾンボリは、イスラム原理主義者ではなくAfDの支持者だと語っている。
ミュンヘンでイラン人の両親に生まれたゾンボリは、イスラム教徒と「カナーケン(有色人種を指す侮蔑語)」を嫌悪していた。そして5年前にノルウェーで銃乱射事件(死者77人)を起こしたアンネシュ・ブレイビクを崇拝していた。