トルコとロシアの新たな蜜月
トルコとロシアの間には、シリア問題もある。エルドアンはシリアのバシャル・アサド大統領と親密だったが、13年に反政府武装勢力支援に回った。以来、アサド政権を支持するロシアと対立する関係にある。
だがここへきて、状況はトルコに不利になり始めた。ロシアの軍事介入でアサドの地盤は固まり、トルコ政府が敵視するシリアのクルド人勢力は、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)と戦う仲間としてアメリカの支援を受け、力を増している。
ロシア軍機撃墜事件後は、プーチン政権もクルド人勢力に肩入れする。クルド人勢力は今年3月、実効支配するシリア北部一帯で連邦制による自治を行うと宣言。トルコ国内のクルド人問題の火に油を注ぎかねない「クルド国家」樹立を阻止するには、エルドアンはプーチンに助けを求めざるを得ない。
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すべてを考え合わせれば、ロシアとトルコには親密な関係を再開させる強い動機がある。関係強化は両国の多くの人々にとっても喜ばしいことだろう。
プーチンに影響力を持つとされる極右思想家、アレクサンドル・ドゥーギンはクーデター未遂の当日にトルコで、エルドアンの腹心でアンカラ市長のメリヒ・ギョクチェクと会った。
ドゥーギンのサイトによれば、ギョクチェクいわくロシア軍機撃墜は米CIAとギュレン支持者の陰謀で、トルコとロシアの仲を裂くことが狙いだった。ギュレン派の脅威を過小評価したのが「トルコの過ちで、今後は過ちを正す。最初の一歩がロシアとの友好関係の回復だ」と、ギョクチェクは話したという。
エルドアンの命、あるいは政治生命を救ったのがロシアの情報でないとしても、クーデター未遂でエルドアンの欧米不信に拍車が掛かったことは確実だ。独裁志向を強めるエルドアンは自分とよく似た男、プーチンとの絆をひたすら深めている。
[2016年8月 9日号掲載]