トルコとロシアの新たな蜜月
ロシア側がギュベルジンリクでの動きを傍受した可能性はある。とはいえ「ロシアとトルコの軍情報部門の間に直接的なコミュニケーションルートは存在しない」と、ロシアのリベラル系新聞ノバヤ・ガゼタの軍事専門家、パベル・フェルゲンハウエルは指摘する。
それだけではない。「トルコ側に警告したとすれば、ロシアには(トルコ軍の)行動や情報を監視する技術的能力があると明かすことになる。そんなことをするのは通常、情報機関にとってタブーだ。大統領レベルの政治的決断なしにはできない」
しかも両国関係は、昨年11月に起きたトルコ軍の戦闘機によるロシア軍の戦闘爆撃機撃墜事件で悪化し、最近になって改善の兆しが見えてきたばかり。フェルゲンハウエルが指摘するとおり、エルドアン政権にクーデター計画を伝えるという重大な決断が、問題の午後のわずか数分間に下されたとは考えにくい。
真に注目すべきは、今回の一件がロシアとトルコの戦略的同盟関係の再強化を示唆している点だ。クーデター未遂事件の結果として、エルドアンは今後、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に戦略的支援を求める可能性がある。
【参考記事】アメリカは大粛清を進めるトルコと縁を切れ
エルドアンは6月下旬、ロシア軍機撃墜は「過ち」だったとの謝罪をプーチンに伝えた。その数日後に両者は電話会談を行い、両国関係を正常化することで合意した。
おかげでロシア人観光客のトルコ渡航制限が解除され、ロシアからトルコを経由する「サウスストリーム」ガスパイプライン計画も再開される見込みだ。クーデター未遂後には、エルドアンがロシアを訪れて今月9日にプーチンと首脳会談を行うことも発表された。
2人の大統領には共通点が多い。いずれもポピュリズム的独裁主義の先駆けで、アメリカへの根強い不信感を共有している。
エルドアンはクーデター未遂直後の演説で、「首謀者」であるイスラム指導者フェトフッラー・ギュレンを米政権がかばっていると非難(ギュレンはアメリカで亡命生活を送る)。「トルコの敵をかくまう者はトルコの友人ではあり得ない」と述べた。
クルド人問題が媒介に
この手の言説は、プーチンが牛耳るロシアのメディアのおはこだ。彼らに言わせれば、アメリカは国家間パートナーシップを説きながら、アメリカの覇権に挑む国の政権を転覆させようとする。プーチンは11年、自らの大統領返り咲きに抗議する大規模デモが起きた際、ヒラリー・クリントン米国務長官(当時)がロシアの反体制派に蜂起の「シグナル」を送っていると非難した。
2人の統治スタイルも似てくる一方だ。クーデター未遂以降、エルドアンはプーチン式に反体制派を弾圧。既に約6万人が解雇や停職処分を受け、6000人以上が当局に拘束されている。