トルコとロシアの新たな蜜月
Sergei Karpukhin-REUTERS(Right), Francois Lenoir-REUTERS
<エルドアンを危機から救ったのはプーチンなのか? クーデター未遂で浮かび上がった両国の意外な絆とは>
クーデター未遂に見舞われたトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領を救ったのは、ロシアのスパイ──そんな説が浮上している。
きっかけはイランの政府系ファルス通信の報道だ。「トルコ軍がクーデターを準備していることを示す、極めて機密度が高い情報と暗号化された無線通信」をロシアの情報機関が傍受し、トルコ側に伝えたという。
ファルス通信によると、情報を収集したのは、シリア北西部ラタキアにあるロシア空軍基地で、GRU(ロシア軍参謀本部情報総局)の電子偵察部門「第6局」が管轄する通信傍受施設。トルコ軍関係者が「軍用ヘリ数機を、エルドアンが滞在する(トルコ南西部のリゾート地マルマリスの)ホテルへ派遣し、エルドアンを拘束または殺害する計画を話し合う」模様が、ロシア側の耳に入ったとのことだ。
この説は、トルコ治安当局高官が行った説明の少なくとも一部と符合する。高官によれば、クーデターの動きが起こる数時間前の先月15日午後3時頃、首都アンカラ近郊のギュベルジンリク陸軍飛行場で「異常な活動」がみられると、国家諜報機関(MIT)に報告があった。
報告の出所は不明なものの、MITのハーカン・フィダン長官は深刻に受け止め、軍のフルシ・アカル参謀総長に警告。パニックに陥ったクーデター勢力は決行を予定より12時間早め、エルドアンは間一髪でマルマリスを脱出することができた。
【参考記事】トルコ政変は世界危機の号砲か
ロシア当局がMITにクーデター計画を知らせたとの話を、トルコとロシアは公式に否定している。とはいえ専門家の指摘によれば、情報をもたらしたのはロシアの通信傍受施設だというのは、少なくとも技術的な面から言えばあり得ることだ。
昨年9月末にシリアへの軍事介入に踏み切って以来、ロシア軍はラタキアの基地に最新鋭の電子通信傍受・妨害装置を配備。ロシアはシリアで、自国の軍事テクノロジーを見せつけようとしていると、英王立統合軍事研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンク研究員は言う。GRU第6局の特殊部隊オスナズは早くも14年2月の時点で、シリア政府軍を支援すべく各地に通信傍受施設を設置していた。
イスラエルの政治・軍事分析サイト「デブカファイル」によれば、ロシアはイスラエル、ヨルダン、サウジアラビアとトルコの広範囲を対象とするレーダー・電子情報収集システムをシリアに導入。「中東の状況認識(に役立つ情報)をシリアやイランに提供している」という。
ロシア軍機撃墜を謝罪
そうだとすれば、トルコのクーデター阻止にロシア情報機関が貢献したという説にも信憑性がある。ただし引っ掛かるのはタイミングだ。