最新記事

日本経済

格差の時代に「ヘリマネ」は日本を救うか

2016年8月9日(火)15時10分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

 冒頭のケインズの予言から既に86年。世界は経済政策を必要としない時代には至っていない。むしろ新しい現実は、経済学や統計手法の修正を常に求めている。

 例えば業種の分類は崩れてきた。ソフトバンクは通信業なのか投資銀行なのか、自前の工場も持っていない米国のアップルは製造業なのかサービス業なのか。頭脳労働があらゆるものに入り込む今、1次、2次、3次産業といった分類は時代遅れだ。

 筆者は親のために介護サービスを使っているが、ヘルパーを頼むということはこれまで主婦が無料でしていた作業にカネを払う、つまりGDPに反映させることだと痛感する。日本の高齢化は一大産業を生んでいる。

【参考記事】日本銀行の「追加緩和」は官僚的な対応のきわみだ

 他方、若者たちは所得が低くてもカーシェアを使ったり、新生児用品などをリースで済ませたりして、生活水準を維持している。こうなると新品への需要は減るが、1つのモノがリース料という付加価値を長期にわたって生み続けるという意味では、GDPにむしろプラスだ。

 ケインズは随筆で懸念を表明している。働かなくても食える時代が来たとき、特にやりたいこともないたぐいの人たちはどうしたらいいのだろう、と。

 だが、そのような「経済政策の終わり」は、まだ先のこと。生産性は上がっているが、国と国との格差、そして国内の持てる者と持たざる者との格差は広がるばかり。「格差是正」を旗印に、強権に訴える原始的なポピュリズム政治が幅を利かせかねない。

 ケインズの予言とは裏腹に、今こそ新しい現実を見据えた経済政策が必要とされている。

[2016年8月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中