最新記事

投資

仮想通貨の投資ファンド「The DAO」が市場ルールを変える

2016年7月4日(月)16時00分
ケビン・メイニー

ニッチな企業にも利点

 従来のクラウドファンディングでは、その企業に出資した人たちが見返りに受け取れるのは製品の優先購入権や記念品くらいで、株主にはなれなかった。投資家保護の名目で、非上場の新興企業株を買えるのは一定の条件(年収20万ドル以上、あるいは純資産100万ドル以上)を満たす人に限られていたからだ。

 つまり金持ちには「さらに金持ちになるツール」が与えられる一方、その他大勢の凡人は(どうせ使いこなせない、下手に使って破産されても困るといった理由で)排除されていた。

magt160704-chart01.jpg

 しかし、これからは違う。どんなに少額でも株主になれる。既に、新ルールに対応したクラウドファンディングのサイトがいくつも誕生している。

 例えばウィファンダー。そのホームページには「富裕層による独占を突き破れ」とある。「富裕層は政府に守られ、高成長の期待できる新興企業に投資する権利を独占してきた。しかし今後は誰でも、自分が期待し、信じる事業に投資できる」

 同サイトの投資先リストにはさまざまな企業が並んでいる。筆者が気に入ったのは「フライドチキンとウイスキーと一緒に味わうグルメなドーナツ」を開発したロデオドーナツ社だ。

【参考記事】フェイスブックのAIエンジンで16億人が丸裸に

 こうした民主的なクラウドファンディングやThe DAOのような仕組みは、より多くの人に公平な富の分配の機会をもたらすだけではない。ロデオドーナツのように小さくてニッチな企業でも資金調達が容易になり、起業しやすくなる。ノースキャピタル・プライベート・セキュリティーズのジェームズ・ダウドCEOが言うように、「プロの投資家の目には特に魅力的と思えないような事業」にとっては大きなチャンスだ。

 このチャンスを生かせば、私たちは経済が「ひと握りの豪族とその他大勢の農奴」で構成されていた時代に戻らないで済むかもしれない。凡人の仕事が、どんどんロボットに奪われていくのは時代の流れ。ならば私たちは個人事業家に転じるしかない。自ら起業し、自ら働き、別の誰かに投資もする。そんな生き方だ。この先、みんなが個人事業を営むようになれば、数十億人の間を資本が行き交うメカニズムが必要になる。

 諸君のような凡人には非上場企業に投資するほどの知識も経験もないと、保守的な人々は言うだろう。The DAOやウィファンダーのようなメカニズムは、どうせ何百万人の庶民を無一文にするだけだと。

 しかし、手をこまねいていれば、ソフトウエアやロボットの台頭で私たちの存在価値はどんどん薄れていくだろう。資本の民主化は、少なくとも私たちに戦うチャンスを与えてくれる。その上ドーナツをフライドチキンとウイスキーと一緒に提供する企業の存続を手助けするチャンスも生まれるなら、実に素晴らしい話ではないか。

[2016年6月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中