ヌスラ戦線が、アル=カーイダから離脱を発表。シリアで何が起きているのか
「反体制派」のなかに紛れ込み、空爆を回避しようとした「秘策」
ヌスラ戦線、イスラーム過激派、「穏健な反体制派」からなる「反体制派」のスペクトラに対して、諸外国の対応はさまざまだ。ロシアは、ヌスラ戦線とそれ以外の「反体制派」を区分できないと主張し、シリア軍とともに激しい空爆を行ってきた。それがイスラーム国に対する空爆より格段に大規模であることは、欧米メディアが報じてきた通りだ。
これに対して、米国は自らが支援する「穏健な反体制派」を擁護するかのように、両者の峻別は可能だと主張し続けてきた。だが、ヌスラ戦線を含む「反体制派」の一体化が公然となるなかで、その姿勢には変化が見られている。
米国は、イスラーム国だけでなく、ヌスラ戦線への空爆でも、ロシアとの連携強化に向けて動こうとしている。有志連合がヌスラ戦線への直接空爆を本格化させるにせよ、ロシアによる空爆を黙認するにせよ、両国の連携がかたちを得れば、ヌスラ戦線が他の「反体制派」とともに窮地に立たされることは避けられない。こうした事態に対処するための「秘策」として、ヌスラ戦線はアル=カーイダとの関係解消に踏み切り、「国際テロ組織」から「革命家」へと転身することで「反体制派」のなかに紛れ込み、空爆を回避しようとしたのである。
この「秘策」は、ヌスラ戦線自身が発案したものではなく、サウジアラビア、トルコ、カタールが画策してきたものだ。この3カ国は、「反体制派」支援策をめぐって共同歩調を強めるようになった2015年初め以降、ヌスラ戦線を含むイスラーム過激派に対してアル=カーイダからの「離反」を奨励してきた。これを受け、例えば、アル=カーイダのメンバーらによって結成されたシャーム自由人イスラーム運動が、アル=カーイダとの関係を否定するようになった。このように「革命家のフリ」をすることで、イスラーム過激派は、軍事面、資金面、そして外交面での支援を公然と受けられるようになった。
ヌスラ戦線も、この3カ国から陰に陽に支援を受けてきた点では変わりがない。事実、彼らは2015年春、シャーム自由人イスラーム運動などとともにファトフ軍を結成し、イドリブ県掌握を主導した。だが、シリア軍とロシア軍の反転攻勢により、こうした勢いは失われてしまった。
パン・アラブ日刊紙『ハヤート』(7月29日付)は、アル=カーイダとの関係解消を条件に「域内諸国」がヌスラ戦線に1,000万米ドルの追加支援を約束したと報じている。その真偽は定かではないが、ヌスラ戦線が今になって「革命家のフリ」をするようになったのは、旧知の支援国であるサウジアラビア、トルコ、カタールからの支援の公然化とその増強を望んでいるからだとも考えられる。