英国・メイ内相、首相就任へ:「もう辞めないで!」
Paul Hackett-REUTERS
<次々と有力者が撤退し、イギリスの次期首相に就任することが決まったテリーザ・メイ内相。「穏健派首相になる」との報道もあるが、これには違和感がある>
「もう辞めないでくれ!」
英国の巷でRESIGNという言葉が流行している。
「Will everyone just stop resigning!(みんなもう辞めないでくれ!)」
といったジョークが職場で、家庭で、パブで乱れ飛んでいる。キャメロン首相、離脱派を率いたボリス・ジョンソン、UKIPのナイジェル・ファラージ、挙句の果てには「トップ・ギア」の司会者クリス・エヴァンスまで辞めると言い出し、文字通り辞める人だらけの英国だが、地べたの人々がいちいちそれに動揺しているかと言えばそんなことはない。もともと離脱票を投じた労働者たちの多くはボリスもファラージも好きじゃなかった。だから彼らはけっこう辞任劇を笑いとばしている。
まあただ、ボリス・ジョンソンだけは、本人は首相になる気満々だったに違いなく、やっと俺の番かと思いきや腹心に裏切られて夢を断たれたが、そもそもコンサバでスノッブな保守党の人々が、だらしなくシャツをズボンから出して我が道を行くボリスを首相に据えたいわけがない。英国のエスタブリッシュメントにはそういうところがある。彼らはあんまりそういうジョークでは笑わない。
なぜ保守派だけが女性首相を輩出できるのか
さてそんな辞める人だらけの英国の、次の首相は女性である。テリーザ・メイ内相とアンドレア・レッドソム・エネルギー閣外相の女性二人が最終候補として残ったが、レッドソムが「母親である私のほうが適任」と発言したため、メディアに袋叩きにされて撤退表明(またもやRESIGN)。そもそも、レッドソムとUKIPとの噂されるリンクも英国のエスタブリッシュメントには下品すぎて嫌われていた。繰り返すが、彼らはそういうジョークでは笑わない(だから良くも悪しくもトランプのような人は英国では首相にはなれない)。
サッチャー元首相が1990年に退任してからキャメロン首相が2005年に党首になるまで、保守党は6回の党首選を行っており、14人の党首候補たちがいたが、女性は一人もいなかったという。それがいきなり、ブレグジットで2人も登場していたわけだ。この状況をイヴ・リヴィングストンはガーディアンのコラムでこう分析する。
いまや保守党のほうが本物のフェミニストに見えます。おかしいと思いませんか? ジェンダーの平等について高らかに謳っている労働党は、女性首相を出すことに成功したことがありません。保守党のほうが指導者候補のジェンダーのバランスを取ろうとしているのでしょうか? リーダーになれる女性議員を育てる戦略があるのでしょうか?
いいえ、データを見ればそんなことはありません。女性首相を輩出しているとはいえ、保守党の女性議員は全体の20%にすぎません。労働党は44%です。党首候補でジェンダーのバランスを取ろうとしているのは、労働党とみどりの党であり、保守党ではそんなことはありません。(中略)
では、ほんの一握りのこれらの保守党の女性たちは、あらゆる苦難を乗り越え、政治制度に女性を受け入れさせるために戦ってきたのでしょうか? いいえ。彼女たちは、保守党に相応しいリーダーになるために、女性差別的な政策を支持するポジションを含め、前任の男性たちのスタイルをそっくりそのまま真似てきたのです。
出典:Guardian:"Don't confuse the Conservatives' embrace of female leaders with feminism" by Eve Livingston
テリーザ・メイが穏健派?
テリーザ・メイはEU離脱投票では残留派に回ったので、「分裂した英国を癒す穏健派首相になる」などと言われているが、これまでの彼女を考えるとこの報道は違和感がありすぎる。
ほんの2カ月前、5月の統一地方選の前にみどりの党が使っていたプロモ映像があり、それは大政党の指導者や大臣たちを5歳の子供たちに演じさせたコメディだった。