急速な円高を原資に「値下げ」にかじ切る日本企業、強まる節約志向
好調企業も値下げへ
値下げの動きは、業績が好調な企業にも広がっている。 エービーシー・マート <2670.T>は「お買い得品で離れた客を取り戻すことが必要」(小島穣取締役)とし、都心店に比べて20%程度安い価格帯の商品を地方・郊外店を中心に展開する。 ABCマートの16年2月期の既存店売上高は5.1%増。客数は4.3%減少したが、客単価が9.9%アップした。
しかし、今年度に入り徐々に変わり始め、5月、6月は客数減を客単価上昇でカバーしきれず、既存店売上高はマイナスに転じた。主に地方・郊外店で、これまで上昇してきた価格と消費者ニーズにずれが生じてきたという。 小島取締役は「消費者に価格センシティブな部分が出てきた。どんどん単価を上げていくイメージではない」とし、これまでのトレンドからの転換を感じている。為替予約を行っていない同社は、円高メリットを生かしていく考えだ。
アベノミクス政策による円安進行で、輸入物価が上昇。賃金引き上げや景気回復の期待もあり、14―15年には値上げが相次いだ。ファーストリテイリング <9983.T>傘下のユニクロも2年連続で値上げに踏み切ったものの、顧客離れを引き起こし、値下げへの転換を余儀なくされた。
都心部への出店強化が客層の拡大につながっているニトリホールディングス <9843.T>の似鳥昭雄会長は「いったん値上げをし、競合他社に流れると、価格を元に戻しても、客は戻ってきにくい。今後とも、いかなることがあっても値上げは一切ない」と言い切る。 海外で製造して輸入している同社にとって、円高はフォローとなるため「円高が続くようなら、値下げや品質の向上を検討していきたい」とした。
過去のデフレ局面との違い
中間層の購買力低下に悩む百貨店業界。三越伊勢丹ホールディングス <3099.T>の大西洋社長は、最も売れる価格帯である「プライスライン」の落ち込みが顕著と指摘するものの、自社の店舗のグレードを維持するためにも「プライスラインは絶対下げない」と語る。
そのうえで製造小売り(SPA)として、自社での企画・製造を増やし、価値を上げることに注力する方針だ。 地方や郊外店で一部廉価商品を導入するABCマートも「全て安くするのではない。以前のデフレとは違う」(小島取締役)と話す。
このように過去のデフレ局面との違いを指摘する声も少なくない。しかし、かつて「国民の役に立っていればデフレは悪くない」と発言し「値下げ宣言」をした似鳥会長(当時社長)から再び「値下げ検討」の言葉が出た。同氏は、今年から来年を展望して、消費の先行きが明るくなる展望は持っていないという。
消費マインドの悪化に引きずられるように、今後、値下げの動きが広がり、再びデフレ局面に入るのか―――。小売りの現場は正念場を迎えつつある。
(清水律子 編集:田巻一彦)
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