最新記事

日本経済

急速な円高を原資に「値下げ」にかじ切る日本企業、強まる節約志向

2016年7月9日(土)12時09分

好調企業も値下げへ

 値下げの動きは、業績が好調な企業にも広がっている。 エービーシー・マート <2670.T>は「お買い得品で離れた客を取り戻すことが必要」(小島穣取締役)とし、都心店に比べて20%程度安い価格帯の商品を地方・郊外店を中心に展開する。 ABCマートの16年2月期の既存店売上高は5.1%増。客数は4.3%減少したが、客単価が9.9%アップした。

 しかし、今年度に入り徐々に変わり始め、5月、6月は客数減を客単価上昇でカバーしきれず、既存店売上高はマイナスに転じた。主に地方・郊外店で、これまで上昇してきた価格と消費者ニーズにずれが生じてきたという。 小島取締役は「消費者に価格センシティブな部分が出てきた。どんどん単価を上げていくイメージではない」とし、これまでのトレンドからの転換を感じている。為替予約を行っていない同社は、円高メリットを生かしていく考えだ。

 アベノミクス政策による円安進行で、輸入物価が上昇。賃金引き上げや景気回復の期待もあり、14―15年には値上げが相次いだ。ファーストリテイリング <9983.T>傘下のユニクロも2年連続で値上げに踏み切ったものの、顧客離れを引き起こし、値下げへの転換を余儀なくされた。

 都心部への出店強化が客層の拡大につながっているニトリホールディングス <9843.T>の似鳥昭雄会長は「いったん値上げをし、競合他社に流れると、価格を元に戻しても、客は戻ってきにくい。今後とも、いかなることがあっても値上げは一切ない」と言い切る。 海外で製造して輸入している同社にとって、円高はフォローとなるため「円高が続くようなら、値下げや品質の向上を検討していきたい」とした。

過去のデフレ局面との違い

  中間層の購買力低下に悩む百貨店業界。三越伊勢丹ホールディングス <3099.T>の大西洋社長は、最も売れる価格帯である「プライスライン」の落ち込みが顕著と指摘するものの、自社の店舗のグレードを維持するためにも「プライスラインは絶対下げない」と語る。

 そのうえで製造小売り(SPA)として、自社での企画・製造を増やし、価値を上げることに注力する方針だ。 地方や郊外店で一部廉価商品を導入するABCマートも「全て安くするのではない。以前のデフレとは違う」(小島取締役)と話す。

 このように過去のデフレ局面との違いを指摘する声も少なくない。しかし、かつて「国民の役に立っていればデフレは悪くない」と発言し「値下げ宣言」をした似鳥会長(当時社長)から再び「値下げ検討」の言葉が出た。同氏は、今年から来年を展望して、消費の先行きが明るくなる展望は持っていないという。

 消費マインドの悪化に引きずられるように、今後、値下げの動きが広がり、再びデフレ局面に入るのか―――。小売りの現場は正念場を迎えつつある。

 (清水律子 編集:田巻一彦)

[ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中