最新記事

テロ組織

ISISのグローバル・テロ作戦が始まる

2016年7月11日(月)15時50分
イライアス・グロル、ダン・ドゥ・ルース、リード・スタンディッシュ

 ISISはここ数カ月、ソーシャルメディアにロシア語やウズベク語のプロパガンダを数多く流している。先月に米フロリダ州オーランドのナイトクラブで発生した銃乱射事件と、フランスで警察官が殺害された事件をISISの戦闘員がたたえる動画では、ロシア語、ウズベク語、英語、インドネシア語、フランス語が使われていた。

「ISISは世界中で戦闘員を勧誘して、欧米でテロを実行させようとしている」と、安全保障コンサルティング会社クロノス・アドバイザリーの共同創設者マイケル・スミスは言う。「イスタンブールのテロリストが本当にISISのメンバーなら、今回の攻撃はそのメッセージを強化することになる」

手負いの虎の危険な賭け

 中央アジアで抑圧されているイスラム過激派の多くは、イラクやシリアに逃れている。NGO国際危機グループの報告書によると、ロシア政府は14年のソチ冬季五輪の前に「過激派を北カフカスの国境から逃したとみられる。しかし、14年後半以降は流出を抑制し、勧誘係や資金調達の要員、将来の戦闘員を組織的に捕らえている」。

【参考記事】連日の大規模テロ、ISISの戦略に変化

 ロシアに戻った戦闘員は今のところ数えるほどだが、「ロシア当局は、彼らがいずれ帰国するのではないかと非常に懸念している」と、ワシントン中近東政策研究所のアンナ・ボルシチェビスカヤは言う。

 ISISのイラクとシリアの侵攻には、北カフカスのチェチェンとダゲスタン両共和国出身の戦闘員が関わってきた。両地域に隣接したジョージア(グルジア)出身で、米軍が3月の空爆で殺害したとされるオマル・ザ・チェチェンことオマル・シシャニは、ISISの国防相に当たる地位に昇格していた。

 このところ、イラク軍が中部ファルージャを奪還し、シリア北部のマンビジにクルド人とアラブ人の連合勢力が侵攻するなど、ISISは支配地域を大幅に縮小している。そのため彼らは戦略の転換を急ぎ、ロシア圏の熟練戦闘員の配置を変えて「戦場をイスタンブールの空港に移した」のかもしれないと、ソウファン・グループのスキナーはみる。

 先月中旬にジョン・ブレナンCIA長官は、ISIS掃討作戦によって「彼らのテロ遂行能力と世界展開が縮小しているわけではない」と述べている。「ISISへの圧力が高まるにつれて、グローバル・テロリズムを掲げる彼らが世界的なテロ作戦を強化すると考えられる」

 イスタンブールの空港テロは、ブレナンの予言が実現したと言えるかもしれない。

From Foreign Policy Magazine

[2016年7月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中