最新記事

核抑止

ブレグジット後も、イギリスは核で大国の地位を守る

2016年7月21日(木)18時30分
ダン・デ・ルーチェ

核使用の用意はある、と答えたメイ首相 UK Parliament/Jessica Taylor/REUTERS

<イギリスの新首相に就任したテリーザ・メイは「核のボタン」を押す覚悟があるかどうかを問われて「ある」と答えた。そして英下院は賛成多数で高額な原潜の更新を決めた。安全保障のためというより、大国としての影響力を保持するためだ> 

 英下院は今週初め、イギリス唯一の戦略核ミサイル「トライデント」を搭載する原子力潜水艦4隻を更新する計画を賛成多数で可決した。核抑止力を維持すれば、EUから離脱した後も大国としての影響力を保てる、というのが賛成派の考え方だ。

 採決の結果は賛成472、反対117で、耐用期限が近づいていた原子力潜水艦の更新を承認。英政府は推定費用310億ポンド(410億ドル)~410億ポンド(540億ドル)をかけ、今後20年間で順次更新を進める。

 与党・保守党議員の大多数と、最大野党・労働党議員の半数以上が賛成票を投じた。労働党は議員の過半数が、核廃絶を訴えるジェレミー・コービン党首の意向に背いた形だ。

 今回の議決で明らかになったのは、1990年代から配備を始めた4隻の原子力潜水艦の更新に英政府が今後も莫大な費用を投じるということだ。

威信回復が急務

 イギリスの国民投票によって世界の市場は混乱し、イギリス政府の中枢も重症を負った。イギリスは果たしてこれからも、軍事力や国際舞台での影響力を維持できるのかどうか、内外で疑問の声が挙がった。

【参考記事】次期英首相テリーザ・メイは「冷たい女」?

 できる、と強い意欲を示したのは新首相のテリーザ・メイだ。就任後初となる13日の議会演説で、核兵器の保持を支持すると表明。必要とあれば核兵器の使用を命じる用意もある、と述べた。

 議会では、スコットランド国民党のジョージ・ケレバンがメイに質問した。「メイ首相は自ら、10万人の罪のない男女や子どもの命を奪う核兵器の使用を許可する覚悟があるのか」

 メイはためらうことなく答えた。「核抑止で重要なのは、敵に我々が核を使用する用意があると知らしめることだ」

【参考記事】女性政治家を阻む「ガラスの天井」は危機下にもろくなる

 アメリカを始めとするNATO同盟国はこうした姿勢を歓迎するだろう。

 だが、労働党のコービン党首は、原子力潜水艦に搭載される長距離核弾頭ミサイル「トライデント」から核弾頭を取り除くよう提案している。コービンは18日の討論でも、破滅的な数の死者を出す可能性のある何十もの核弾頭を、イギリスが保有する論理的根拠を問いただした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中