最新記事

南シナ海

チャイナマネーが「国際秩序」を買う――ASEAN外相会議一致困難

2016年7月25日(月)17時20分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 その上で、李克強は南シナ海判決に関して、カンボジアが中国側を支持するように求めたのである。

 それに対してフンセン首相は、「カンボジアは当事国同士が対話を通して協商することを支持する」と回答している。

 カンボジアの場合は、アメリカと旧ソ連との板挟みになり複雑な歴史をたどりながら、(基本的にはアメリカ勢力によって)国外追放になったシハヌーク国王を受け入れたのは中国だった。だからシハヌーク国王の墓は北京にある。

 そういう深い関係もあり、中国とカンボジアは、ことのほか親密だ。

絶対に中国の肩を持つ国々は?

 外交関係では、なかなか「絶対に」ということは言えないが、しかし3カ国を挙げるとすれば「パキスタン、カンボジア、ラオス」を挙げることができる。

 ASEAN関連の会議で、ASEAN内陸国のカンボジアとラオスを自国側に引きつけておくことは、中国にとっては戦略的に不可欠だ。

 ASEAN外相会議だろうとASEAN拡大外相会議(ASEAN諸国+日米中露豪EU...などが参加)だろうと、カンボジアとラオスがいる限り、ASEAN諸国が一致して中国に不利な共同声明を出すことはできない。

 特にASEAN会議では「全員の一致」が要求されるので、カンボジアとラオスを通して、中国の望みは叶えられるのである。
ましていわんや、今回はラオスが議長国。

 今ではチャイナマネーが「国際秩序」をも買ってしまっているのである。 

 中国の過度なほどの自信と傲慢さの原因は、ここにある。

 その中国、実は根幹的な弱点を抱えている。

 それは中華人民共和国を誕生させた毛沢東と中国共産党に関する秘密を、中国が隠し通していることである。その秘密を中国人民が知った時に、中国共産党は統治の正当性を失い、中国共産党政権はたちどころに滅びるだろう。

 その秘密は、拙著『毛沢東――日本軍と共謀した男』に書いた通りだ。

 これを隠し続けていたいために激しい言論弾圧とともに強硬姿勢に出る。

 しかし日本の世論には、先の戦争への贖罪意識が働くのか、この「決定的な力を持っている事実」を、正視する勇気はないらしい。

 どうも筆者には、中国の顔色を窺っているように思えてならないのだが、あるいは、チャイナマネーが至るところで力を発揮しているのだろうか......。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中