最新記事

法からのぞく日本社会

国民投票か、間接民主制か? 理想の選挙制度を探して

2016年6月30日(木)16時51分
長嶺超輝(ライター)

sh22-iStock.

<世界の9割近くの国では「18歳選挙権」がすでに実現しているが、それで十分ではない。投票率を引き上げ、民意をよりよい形で政治に反映させるには、先のEU離脱投票のような直接投票がいいのか、それとも「電子投票」「ネット投票」「0歳選挙権」といった最先端の選挙制度を検討すべきなのか、各国で試行錯誤が続いている>

 日本ではこの夏から、選挙の有権者の下限がようやく「18歳」となる。画期的な改正ではあるが、すでに世界の9割近くの国は「18歳選挙権」を前提としている。そのうえで、投票率を引き上げ、民意をよりよい形で政治に反映させるためにはどうすべきか、各国で試行錯誤が続いているのだ。

 そしてその試行錯誤には、選挙制度の"デザイン"も含まれている――。

政治参加のモチベーションを上げるために

 選挙には、おもに2つの効果が期待される。代表者を選ぶことで、政治が効率的に進む「民意統合」の効果と、国民それぞれが政治に参加した納得感を得られる「民意反映」の効果である。

 先週イギリスで行われた「EU離脱」の国民投票や、昨年の「大阪都構想」の住民投票などは、直接民主制に根ざした試みだった。民意をダイレクトに問われた大衆は、政治参加の充実感や納得感を得られ、政治家は投票の最終結論を推し進める正当性を獲得できる。

 ただ、賛否をシンプルに二者択一で問う直接投票には、むしろ大きなリスクが伴う。大衆同士を不用意に対立させるだけでなく、賛否が拮抗していれば、わずかな世論の変化で極端な政治判断が導かれかねない。

【参考記事】EU離脱派勝利が示す国民投票の怖さとキャメロンの罪

 やはり、選挙を通じて政治をプロに委ねる間接民主制(代表民主制)のほうがいいのだろうか。しかし、間接民主制には「民意反映」がおろそかになるリスクが常に付きまとう。数年に1度の選挙シーズンを除けば、国民を置いてけぼりにして、プロの都合だけで政治が進められる局面が多くなるのである。

 政治に民意が反映される実感が得られなければ、国民の間に選挙への諦めムードが生まれ、投票率が下がっていく。投票率が下がれば、一部の国民にとっての利害だけで政治が行われるようになり、ますます投票率が低下するなど、悪循環が加速する。

 では、どのようにすれば政治参加のモチベーションは上がるだろうか。他国で導入・検討されているものなど、最先端の「選挙デザイン」を紹介しよう。

電子投票(デジタル投票)

 現在の日本に導入されている選挙方式は、ご存知の通り、文字で直接、候補者名や政党名を書き入れる「自書式」である。ただ、開票作業に手間がかかる弱点がある。

【参考記事】選挙の当落を左右する!? 味わい深き「疑問票」の世界

 そこで、投票所に専用の選挙集計マシンを用意し、ATMのようなタッチパネル方式で候補者名に触れば投票が完了するシステムが考え出された。実際、2000年代に入って、国内では地方選挙レベルで導入する動きが広がりつつあった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中