最新記事

法からのぞく日本社会

国民投票か、間接民主制か? 理想の選挙制度を探して

2016年6月30日(木)16時51分
長嶺超輝(ライター)

 ただ、電子投票を導入した2003年の岐阜県可児市議選において、投票時間の最中にマシンが過熱暴走を起こして1時間以上ストップ。そのせいで多くの有権者が投票を断念したとされ、選挙無効・再選挙の司法判断がくだった(最高裁判所第二小法廷 2005年7月8日判決)。

 この判決をきっかけに、国内における電子投票普及の機運は一気に萎んでいった。この重たいトラウマは、しばらく払拭できそうにない。

インターネット投票(遠隔投票)

「投票所まで行くの、だるいな」「PCやスマホから投票できればいいのに」......などと、ほとんどの人が考えることだろう。一般の有権者にとって投票の利便性が高まり、投票率の向上が期待できるだけでなく、外国や船上、宇宙などに滞在中で、日本国内での投票が難しい有権者にとっても、オンラインで一票を投じることができれば有用である。

 実際、エストニアでは国政選挙レベルでのネット投票が実用化されている。アメリカのアリゾナ州やミシガン州では、過去に大統領選予備選で導入された実績がある。

 もっとも、なりすましやハッキングなどの不正がはびこる危険性は拭えない。ただ、現にネットバンキングが実用化されているのだから、ネット選挙を実施する上でのセキュリティ面も、いずれは技術的に極限まで高めていけるだろう。

 それでも、セキュリティを高めれば高めるほど、誰が誰に投票したかを誰にも特定されない「秘密投票」の保障が困難になるおそれがある。これはこれで、別個に技術的な克服が求められるのだろう。

ドメイン選挙方式

 子どもの重要な契約締結などを親権者が代行するのと同じように、未成年者の選挙権を親が代わりに実行することを認めようという考え方がある。

 生まれたばかりである0歳児の赤ん坊から選挙権を認めるこの制度は「ドメイン選挙方式」と呼ばれ、ドイツやハンガリーなどで導入が検討されている。

【参考記事】参院選は7月11日生まれの「17歳」も投票できます

 高齢になるほど投票に積極的な「シルバー民主主義」と揶揄されて久しい日本でも、このたび「18歳選挙権」が導入され、若年層の有権者が約240万人増加する。とはいえ、約1億人の有権者がいる国において、数や割合の上では、その実質的な影響力は限定的に留まるのかもしれない。

 仮に日本で「ドメイン選挙方式」が導入されれば、0~17歳の国民である約1920万人(2016年6月速報値)へ権利が付与され、新たな票に転化される。いわゆる「シルバー民主主義」の現状に与えるインパクトは相当なものになるだろう。

 ただ、日本国憲法では15条3項に「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する」と明記されている以上、ドメイン選挙方式を日本で導入するには、憲法改正が必要となりそうだ。ここで「成年者による普通選挙」には、成年者が一定の未成年者の選挙権を代行する場合も含むと解釈するならば、憲法改正なしで導入することも正当化されうる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中