大胆で危険なサウジの経済改革
マッキンゼーとの関係
しかもこのとき既に、多額の社会保障・安全保障支出で財政難に陥っていた。3年前、独裁政権を倒した「アラブの春」の広がりを恐れたサウジの王族は、1300億ドル相当の補助金と社会保障を新たに発表していた。
政府はさらに、最大の敵イランに対抗するため数十億ドルの国防予算の増額を行った。サウジは今年、ロシアに代わって世界3位の軍事費支出国となり、国防軍の装備には560億ドルを充てている。
こうした放漫財政と時を同じくして、サルマン国王の息子であるムハンマドが政策決定の中心人物として浮上してきた。
昨年4月の副皇太子就任から1年もたたないうちに、野心に満ちた30歳の王子は、経済から防衛、女性の権利や経済改革に至るまでさまざまな問題についての改革を推進。リークされたドイツ諜報機関の報告書が、「父の存命中に王位継承における自らの立場を確立しようと、(ムハンマドが)無理をし過ぎて失敗する潜在的なリスク」があると警告していたほどだ。
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既に失敗している、との指摘も一部にある。王位継承順位2位で、王立裁判所長官であることに加え、軍事と経済政策を担当するムハンマドには「戦争と石油の王子」というあだ名が付いた。軍事や外交で大した経験のない彼が国防相に就いたことは、王族の評判を左右しかねない大変なギャンブルだ。シリアとイエメンの内戦への介入はいつ終わるかも分からず、しかもサウジ軍の能力は国際的にみればかなり低い。
王子たちの飛行クラブのようなサウジ空軍はイエメンで住宅地や民間人への爆撃や機銃掃射を行い、その残忍な無能ぶりで知られるようになった。数ある中でも最悪の出来事の1つが、サウジ主導の有志連合軍による3月15日の2回の空爆だ。マスタバ村の混雑した市場が狙われ、119人の死者が出た。
もっともムハンマドの影響力が一番強く及んでいるのは、経済分野だ。法律の学士号を持つ彼は短期的な財政の立て直しだけでなく、サウジを不労所得で生活できる国から、1次産品市場に左右されない工業国に変えるという重要な任務に着手した。彼の目標はこの上なく野心的だ。約30年でサウジを原油依存から脱却させるというのだから。
改革の基本構想ビジョン2030は、昨年12月にコンサルティング会社マッキンゼーのウェブサイトに掲載された報告書に酷似する。ムハンマドも、サウジ政府が同社と密接な関係にあることを認めている。サウジ政府に批判的な人々は、経済企画省は「マッキンゼー省」に名前を変えるべきだとあざ笑う。