企業という「神」に選ばれなかった「下流中年」の現実
今は社会に関わりを持てている"働き盛りの"中年世代であっても、突然、転落するかもしれないリスクは誰もが持っている。それどころか、真面目で、他人の痛みを理解できる優しい普通の人が、"社会のレール"から外れて、抜けられなくなっていく。 1日に10時間以上働いても、月に10万円余りにしかならない実態にあえいでいる働き盛りの世代も多い。(235ページより)
池上と加藤による第4章「ルポ・下流中年 12人のリアル」のまとめ部分には、上記のように書かれている。ではそんななか、中高年世代にもっとも必要なものはなにか? それはセーフティネットだ。彼らは生活困窮者自立支援法では対象になっているものの、窓口の対応では想定されていないというのである。だから、それがまた彼らを苦しめる。社会の役に立ちたいと思っても、道が用意されていないのだ。いま、すぐにでも取り組むべきが、その点の改善であることは明らかだろう。
なお、この章で明らかにされている下流中年たちの生の声をここに引用しなかったことには理由がある。あまりに生々しすぎるだけに、引用の確認で済ませず、一字一句読んでほしいという思いがあったからだ。現実的に、いま、私たちにできることは少ないかもしれない。しかし、だからこそ、彼らの真実を受け止めることが大切だと考えるのである。
『下流中年 一億総貧困化の行方』
雨宮処凛、萱野稔人、赤木智弘、阿部彩、池上正樹、加藤順子 著
SB新書
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。