最新記事

映画

ウォール街の闇に迫る金融エンタメ『マネーモンスター』

2016年6月17日(金)16時10分
エイミー・ウエスト

 クルーニーとロバーツの相性が素晴らしいせいで目立たないが、人物造形は中途半端だ。キャラクター像がもっとしっかり練られていたら、窮地に陥ったリーとパティに対する観客の感情移入度も、サスペンス映画としての面白さも10倍はアップしただろう。

 アイビス社のCEOウォルト(ドミニク・ウェスト)と右腕のダイアン(カトリーナ・バルフ)に至っては、それぞれの背景について何の説明もない。どちらも興味深いキャラクターだが、ストーリーにしっくりはまっているとは言えない。

 ラストがやや強引に思えるのも、脇のウォルトとダイアンの人となりがきちんと説明されていないから。立て籠もり事件が飛び切りスリリングに描かれているだけに、ずさんな人物造形は惜しい。

【参考記事】アンドロイド美女が象徴するIT社会の深い不安感 人工知能SF『エクス・マキナ』

 技術面は見事だ。撮影監督のマシュー・リバティーク(『インサイド・マン』)はド派手なショットを繰り出したかと思えばクローズアップで閉塞感を表現し、目を楽しませてくれる。ドミニク・ルイスの音楽も映像に完璧にマッチしている。

 脚本のアラン・ディフィオーレとジム・カウフが深いメッセージを発信し、観客にアメリカの金融やウォール街の在り方にについて考えさせようとしたのかどうかは分からない。

『マネーモンスター』を見ても勉強にはならないし、大きな感動もない。ただし脚本チームが映画の醍醐味を味わえるエンターテインメントを目指したのなら、大成功だ。

 これはオリジナリティーには欠けるが、気軽に楽しめる昔ながらのサスペンス映画。前作の『それでも、愛してる』や監督デビュー作の『リトルマン・テイト』よりもフォスターの野心が鮮やかに表れ、手に汗握る娯楽作品に仕上がった。

【映画情報】
MONEY MONSTER
『マネーモンスター』

監督/ジョディ・フォスター
主演/ジョージ・クルーニー
  /ジュリア・ロバーツ
日本公開中

[2016年6月21日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米国が日本にミサイルを配備すれば対応する=ロシア外

ビジネス

米新規失業保険申請は2000件減の21.3万件、減

ワールド

イスラエル、レバノン北部のシリア国境を初空爆 輸送

ワールド

停戦合意発効、おおむね順守 レバノン南部に避難者戻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウクライナ無人機攻撃の標的に 「巨大な炎」が撮影される
  • 4
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「健康寿命」を2歳伸ばす...日本生命が7万人の全役員…
  • 8
    トランプ関税より怖い中国の過剰生産問題
  • 9
    トランプは簡単には関税を引き上げられない...世界恐…
  • 10
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 10
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中