最新記事

イギリス

英キャメロン首相「EU離脱派6つのウソ」

2016年6月9日(木)15時30分
ジョシュ・ロウ

Daniel Leal-Olivas-REUTERS

<イギリスの世論調査でEU離脱支持がEU残留指示を上回ったことで、キャメロン英首相は火曜に緊急の記者会見を開いて必死の説得を行った。EU離脱か、残留かを問う国民投票は23日に迫っている。離脱派とキャメロンの主張はどちらが正しいのか>

 キャメロンは、EU離脱派はEUについて6つのウソをついているという。事実を検証する。

離脱派のウソ(1)
 EUに残留すれば、イギリスはユーロ圏諸国が財政難に陥ったときの金融支援に参加させられる。

事実)
 ユーロ圏諸国に対する金融支援について定めた2011年の欧州委員会の決定には、イギリスなどユーロ圏以外の国は負担を負わないとはっきり書いてある。

 離脱派の主張の根拠は、EUは2015年「合意に背いて」ギリシャ救済資金をイギリスに負担させようとした、というオズボーン英財務相の言葉。確かにオズボーンはそう言ったが、すぐ後にEUのその試みは阻止したと言っている。

【参考記事】イギリス離脱を止められるか、EU「譲歩」案の中身

離脱派のウソ(2) イギリスは今EUへの拠出金の3分の2をリベートとして払い戻してもらっているが、離脱派は今後EUはリベートを廃止する可能性があると主張する。キャメロンはリベートは今後も変わらないと言う。「変更しようとすればイギリス首相は拒否権を発動できる。リベートを放棄できるのはイギリス首相だけだ」 

事実) キャメロンの言うことが本当だ。下院図書館の調査によれば、リベートの変更にはEUの全加盟国の賛成が必要だ。独立系の調査会社フルファクトも「リベートは将来とも、イギリスの合意なしに変更できない」という見解だ。

離脱派のウソ(3)
 離脱派は、EUが域外諸国と結ぶ条約に対する拒否権をイギリスが放棄したという。キャメロンは全面的にこれを否定する。「EUの正加盟国として、拒否権を放棄する話はまったくない」 

事実) キャメロンとEUの合意では確かに、ユーロ圏内の統合深化のための法案に対する拒否権はイギリス首相にはない。だが、イギリスに直接影響する事柄に対する拒否権は少しも放棄していない。

【参考記事】EU離脱、ブレグジットの次はフレグジットにスウェグジット?

離脱派のウソ(4) イギリスはEUの予算拡大に歯止めをかけられない。

事実) 離脱派の意見はEUの財政危機を前提にしたもの。彼らは、既に予算が合意済みの2020年までの間にも、EUは財政支出の拡大を迫られる。キャメロンがそのリスクをことさら強調しなかったのは確かだが、離脱派もキャメロンが予算拡大に拒否権をもつことに言及していない。イギリスの政治家は拒否権の使い方を「いつもしくじって」おり、EUに対するイギリスの政治力が弱いと指摘するに止まっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き

ビジネス

トランプ氏、ビットコイン戦略備蓄へ大統領令に署名

ビジネス

米ウォルマート、中国サプライヤーに値下げ要求 米関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中