旧敵国ベトナムに塩を送る武器禁輸解除の真意
Carlos Barria-REUTERS
<ミャンマーの民主化を成果として誇るオバマが、ベトナムでは人権問題に目をつぶって武器禁輸を解除したのは、南シナ海での対中戦略を最優先したからだ> 写真はベトナムを訪問したオバマ
オバマ米大統領は先週ベトナムを公式訪問し、現地の市民団体のメンバーと会談した。草の根の民主化活動家と、アメリカの連帯を示す象徴的な会談だったが、会場の半分は空席だった。数時間前、招待されていた参加者のうち3人が治安当局に身柄を拘束されていたのだ。
その前日にオバマは、長年にわたり実施してきたベトナムに対する武器禁輸措置を完全に解除する方針を表明。中国が南シナ海の係争水域において戦略的立場を強める今、武器禁輸措置はこれまでになく重くベトナムにのしかかっていた。
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禁輸解除によって、かつて戦火を交えた両国が「イデオロギー上の相違」を水に流すことができたとオバマは主張した。だがこれでアメリカは、アジアで最も民主化が遅れていて、最も人権侵害が横行している国の1つに見返りを与えたことになる。
オバマが共同会見を行ったクアン国家主席はつい最近まで、民主化運動の活動家らを弾圧し、投獄している公安省の大臣を務めていた人物だ。
なぜオバマは、ベトナムの人権問題に譲歩したのか。今回の方針転換は南シナ海において攻撃性を強めている中国への牽制、という見方をオバマ自身は否定している。だがオバマの決断には、南シナ海で安全保障上の力学が急速に変化し、アメリカの優位性が脅かされている現状が織り込まれていることは確かだ。
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ベトナムは軍備の大部分をロシアに依存しているが、アメリカの監視技術と装備があれば、中国に対する抑止力を大幅に向上させられるだろう。
対タイ政策との矛盾も
だがオバマの決断には明らかに、哨戒機などをベトナムに売り付ける以上の意図がある。今年は米大統領選が行われ、オバマはレームダック同然。イラクやアフガニスタン、シリアの紛争が一向に終結しないなかで、自らの外交政策の遺産を補強するため、アジアで功を成し遂げたがっているとの指摘もある。
「アジア回帰」「リバランス」とも呼ばれるオバマの政策は、アジアを外交政策の中軸に据えることを目指していた。
オバマ政権は、ミャンマー(ビルマ)で進行中の軍事政権から民主政権への移行をアジア回帰の誇るべき成果としている。一方、軍事独裁政権による抑圧が続くタイについては、毎年行ってきた多国間軍事演習への米軍の参加規模を縮小するなどの対抗措置を取っている。