英EU離脱投票:暴走するワーキングクラスの怒り
残るはやはり移民問題なのか
これは風向きが変わったなと感じたのは、潔癖左翼と呼ばれてきたジェレミー・コービンが「移民について心配するのはレイシストではない」と語ったときだった。
下層労働者が「移民が多すぎる」と言えば、左派は「レイシスト」と言って彼らの不安を頭ごなしに否定し、耳を貸さなかった。しかし伝統的には、こうした人々こそが労働党を支持してきた層だったのである。コービンはこう言った。
「劇的に、急激に変わるとコミュニティーの人々は当惑します。彼らはリトル・イングランダーではないし、外国人嫌いでもないし、レイシストでもない。地域に人々が増えれば、病院や学校や住宅にプレッシャーがかかる。それは移民のせいではありません。政府のせいです。2010年に政府はMigration Impact Fund(移民による影響の対策基金)を廃止しました。それは地方自治体が移民による短期的インパクトに耐えらえるよう配分される基金でした。この廃止により、政府はコミュニティーが移民に対応するための準備と投資を弱体化させたのです」
しかし、いくら「保守党政権が悪い」と結論づけても次の総選挙は2020年であり、怒れる労働者たちには遅い。
さらに、別の観点から「EU離脱派はレイシストではない」と主張する労働党議員や支持者たちもいる。前述のフランク・フィールドの記事も、伝説の労働党女性議員、バーバラ・キャッスルの言葉を引用してこう主張している。
EUの外に出れば、我々はEUメンバーに現在求められているような、ドイツ人やスペイン人やベルギー人を優遇し、インド人やオーストラリア人やカナダ人を冷遇するといった差別をしなくなるでしょう。英国は、「リトル・ヨーロッパ」や地理的に近い国々のためだけに仕える国ではなく、肌の色に左右されない移民政策を通して、再び世界の市民になるのです
16日に発表されたIpsos MORI の世論調査では離脱希望が6%リードしている。
追記:この記事は残留派の労働党議員ジョー・コックス氏が死亡される前に書いたものです。彼女が共同執筆された文章を昨年ここに書いた記事の中で一部引用させていただいたこともありました。RIP Jo Cox.
[執筆者]
ブレイディみかこ
在英保育士、ライター。1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。2016年6月22日『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)発売。ほか、著書に『アナキズム・イン・ザ・UK - 壊れた英国とパンク保育士奮闘記』、『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 』(ともにPヴァイン)。The Brady Blogの筆者。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。