リアルなVRの時代がついに到来
『トイボックス』というオキュラスリフトのデモ用ゲームも印象的だった。もう1人のプレーヤーと共に仮想空間で卓球をしたり積み木を投げたり、光線を当てて相手を小さくしたりできる。人工的な環境だけでなく、生身の相手ともリアルなやりとりができるというVRの可能性が垣間見えるデモだった。
未来のVRは物質も制御
もっとも一般消費者向けのVRディスプレイはまだ発展途上だ。サムスンUSAのニック・ディカーロ副社長は携帯電話の進化に例え、「VRは、まだ折り畳み式携帯の時代にいる」と語る。
最新型の高性能ディスプレイの価格は一般向けとは言い難い。599ドルのオキュラスリフトは衝動買いするには高過ぎるし、HTCの「バイブ」は900ドルを超える。プレイステーションVRは、ゲーム機本体より高い4万4980円だ。
VRが万人受けするかどうかという問題もある。「気になるのは疲労感だ」と、ジマーマンは言う。彼によれば、過去のVR機器が普及しなかった理由の1つは、実際の頭の動きに機器がついていけないことにあった。「見えるはず」と脳が想定する映像と画面上の映像にずれが生じ、船酔いに似た症状を引き起こしてしまったのだ。
将来は『スター・トレック』に出てきたような、足を踏み入れるだけで異世界が体験できる「部屋」が実用化されるかもしれない。その時こそ、VRの先駆者サザランドがかつて思い描いたイメージが現実のものとなるのではないか。
「究極のディスプレイは、物質の存在をコンピューターで制御できる部屋のようになるはずだ」と彼は1965年に書いた。
「その部屋に映し出された椅子は座れるくらい丈夫だし、映し出された手錠で人を拘束することもできれば、映し出された弾丸で命を奪うこともできる。適切なプログラミングを行えば、そうしたディスプレイは文字どおり、アリスが足を踏み入れた不思議の国になり得る」
[2016年4月26日号掲載]