中国SNSのサクラはほぼ政府職員だった、その数4.8億件
「世論誘導はしていますが、それがなにか?」と政府系メディア
さて、この研究について中国国内メディアはだんまりを決め込んでいるが、唯一、真っ向から反論しているのが環球時報の社説だ。その反論内容がなかなか興味深い。論点は主に二つある。
第一に、中国のネット世論誘導にはさまざまなものがあり、「セント党」(民主主義を礼賛し中国を批判するなど西側寄りの書き込みをする人々。五毛に対する意味で米国の通貨セントから名前が取られた)もあれば、商業的なサクラ書き込みもあり、政府の言論統制と十把一絡げにまとめる研究は中国の実情を理解していないという反論だ。
実際、キング教授の研究はある地方宣伝部局の流出メールが資料であり、これだけで中国ネット世論統制の全貌が明らかにできたかについては疑問符がつく。例えば拙著『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』で取り上げたが、共産主義青年団(共青団)は大学生や国有企業従業員らを対象に、最大1000万人とも言われるネット世論監視ボランティアを動員したことが明らかになっている。このボランティアは共青団系統の指示で動いており、宣伝部局とは指示系統が異なるため、流出メールからは状況が把握できなかったことが予想される。
そして第二に、世論のあり方は国情によって違い、中国には世論誘導が必要で、中国人の大半は必要性を認めているとの主張だ。「世論誘導はしていますが、それがなにか?」と開き直る大胆な反論である。環球時報以外のメディアならば掲載は難しいだろう。環球時報は人民日報社の旗下にあり、社説を書いた胡錫進編集長は政府高官と太いパイプを持つと噂されている。
ただ政治力があるから書けるというだけでなく、環球時報の主張が評価されている部分もありそうだ。胡編集長はたんに西側を批判するのではなく、西欧的な人権と中国の国情との均衡点に落としどころを見つけるべきとの主張で一貫している。昔ながらのプロパガンダで民主主義などの西側思想を否定されるとげんなりするような人の中にも、「民主主義よりもまずは社会の安定が大事」「西側と中国では国情が違うから、西側のような言論の自由は難しい」と考える人は相当数存在する。そうした人々にとっては環球時報の反論は腑に落ちるものとなる。
官僚たちがまじめに強化していく言論統制の先にあるもの
しかしながら、言論統制やむなしと考える人々も、とめどない規制強化に賛同できないのではないか。習近平政権発足後、言論統制は大幅に強化されている。