最新記事

教育

中国人学生対象の「不正」請負業者、米大学で暗躍

2016年5月31日(火)19時08分

 さらにロイターは、学生による出願書類の作成を支援する中国国内の業者を突き止めた。出願用の小論文を修正や代筆、高校教師からの推薦状に手を加えたり、さらには偽造の高校成績証明書を入手するよう学生にアドバイスすることさえある。他の業者は、入学後も講義の代理出席を有料で引き受けるなどの不正な支援を続けていた。

「外国、特にアジアからの学生の現実として、出願書類が本物か、論文は本人が書いたものか、試験会場に現れる人物が出願者本人か、といった懸念がある」と語るのは、バージニア州アーリントン全米大学入学カウンセリング協会の最高経営責任者であるジョイス・E・スミス氏だ。

 不正行為サービスはアイオワ州以外にも広がっている。たとえばワシントン大学、アラバマ大学、ペンシルバニア州立大学でも、今学期、学生のもとに匿名の業者から中国語での宣伝メールが送りつけられた。

 その業者に代理出席や宿題代行を依頼すれば、成績の平均評点を引き上げ、早期に卒業できる、という宣伝文句だった。ロイターがその広告を確かめたところ、返金保証制度も設けられていた。「A」評価を取れなかった学生は返金してもらえるという。

安易な選択

 こうした市場には大きなポテンシャルがある。国際教育研究所によれば、現在、学位取得を目指して米国で学ぶ外国人学生は約76万1000人である。その3分の1が中国出身だ。米商務省の統計では、2014年に中国人学生が米国で学費及びその他の財・サービスに費やした金額は、約100億ドルに達している。

 もちろん、中国人学生がすべて不正直であるわけもなく、米国人学生も不正行為の誘惑とは無縁ではない。だが中国人学生にとっては、見返りが極端に大きいだけに、ルールを破ろうという誘惑は強い。

 中国国内にある大学の入学資格は、そのほとんどが「高考」と呼ばれる競争の激しい全国統一入学試験を通じて与えられる。何年にもわたる不眠不休の準備が必要な試験である。

 中国の親たちのあいだには、自分の子どもにはこんな苦しい経験をさせたくないと考える人が増えている。米国の大学はもっと進学しやすく、教育の質は高く、よい仕事に就ける可能性も高い。

 こうした学生を成功させるため、支援業者はさまざまな角度から米国の高等教育システムの弱点につけ込もうとしている。大学としては、こうしたサービスを利用する志願者を厳しく選別するには大変な苦労が伴う。その理由を、1人の学生の例から見ていこう。

 中国本土でも香港に近い深セン市(人口約1100万人)で生まれたXhuan Claren Rongは、高校時代の一時期を米国で過ごした。2011年9月、マサチューセッツ州グランビーの寄宿・通学併設のマクダフィ高校に9年生として編入したのである。

 マクダフィ高校のスティーブン・グリフィン校長は、「真面目で勉強熱心な生徒に見えた」と言う。残念ながら「成績は学年のなかでも中程度」と同校長は記憶している。「家族にとっては、それでは不十分だったようだ」

ロイターはマクダフィ校におけるRongの成績証明書を調べてみた。学校側は本物であると証明してくれた。2014年4月時点での総合評点は4点満点中2.8点で「B」相当だったが、ラテン語と物理学の「D」が汚点となっている。彼は2015年に卒業するはずだったが、残り1年の時点で中退してしまった。
 2014年3月、彼は「存善德教育」という業者のクライアントになる。中国人学生の米国大学への入学を支援する業者で、「トランセンド・エデュケーション」という名でも知られる同社は、深セン市の金融地区にある高層オフィスビルの25階に入居している。

多額の手数料

 創業者のKevin Li氏とMichael Du氏は、どちらも米国の一流公立大学の1つであるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に在籍していた。Li氏によれば、米国の大学への出願について、中国人学生向けの広告を打ち始めたのはUCLA在学中だったという。Du氏からは、「自分はもうトランセンドの事業には関与していない」と告げるメール以外にはコメントを得られなかった。

 両氏が深セン市でトランセンドを立ち上げたのは約5年前である。Li氏の話では、トランセンドは年間約40人の顧客と契約しており、1万2000ドル─1万8000ドルの料金でサービスを提供しているという。同氏の説明によれば、サービスの内容は学生への助言や、カウンセリングである。

 受領書を見ると、Rongの両親がトランセンドに払った金額は約1万3700ドルである。ロイターがメールの記録を調べたところ、この業者の助けを借りて、Rongは少なくとも15の米大学に出願している。彼は2015年、カリフォルニア大学(UC)デービス校への入学を認められた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FRBが自らの金利巡る発言聞くと期待 

ワールド

FRB、サイトから多様性の項目削除 トランプ氏の就

ワールド

トランプ氏「関税避けたければ米で生産」、利下げも要

ワールド

トランプ氏、サウジに原油値下げ要求へ 1兆ドルの投
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 4
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 5
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 6
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 9
    【トランプ2.0】「少数の金持ちによる少数の金持ちの…
  • 10
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 7
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中