最新記事

教育

中国人学生対象の「不正」請負業者、米大学で暗躍

2016年5月31日(火)19時08分

 2015年3月、米大学100校以上に、トランセンドの元従業員と称する匿名の人物からメールが届き始めた。そこには、Rongを含む約40人の中国人入学志願者についての詳細が記されていた。

 この告発者は、一部の大学に宛てたメールで「このメールを送るのは、Xuan Rongという学生が、米国の大学に出願する中国人学生の出願書類を代筆し、詐欺的な出願を行っている会社である存善德教育の影響下にあるということをお知らせするためだ」と書いていた。

 告発メールによれば、Rongは出願書類のなかで深セン市中心部の高校に在籍し、1年・2年のときに平均評点「A」を維持していたと書いているが、実際にはマサチューセッツ州のマクダフィ校に在籍していた、という。

 そのメールには、2種類の成績証明書が添付されていた。マクダフィ校の本物と、深センにある高校のものである。どちらの成績証明書にも、1年次と2年次の成績が記されていた。しかしその当時、Rongは深センの学校には在籍していない。

 たいていの場合、大学の入試担当事務局には、こうした告発を精査するだけの人手が備わっていない。彼が入学したUCデービス校の場合、この秋の出願者は6万5819人もいるのだ。5人に1人は外国出身の学生である。対して同大学には7人の入試担当職員がいるだけだ。

 それでもUCデービス校の入試担当職員であるミツコ・レナード氏は、元トランセンド従業員に「実際の証拠を提供できるのであれば、すべて検討する」という返信を送った。

偽の成績証明書

 すると、5日後の2015年3月30日に告発者からの返信があり、21名の学生に関する情報を記載した217本の文書が添付されていた。添付ファイルのほとんどは、大学に提出された論文の複数のバージョンであり、告発者によれば、トランセンドの従業員が手を加えたものだという。

 そのなかには、Rongが書いた論文の9種類のバージョンが含まれていた。原稿の変化を調べてみると、文法や文体が劇的に改善されていくのが分かった。このメールでは、Rongが在籍していた高校に関する「特別情報」が付されていた。

 告発者は、Rongの両親はマクダフィ校での息子の「振るわない成績を隠す」ために、地元である中国の高校から「偽の成績証明書」を手に入れたと主張している。添付ファイルのなかには、マクダフィ校からの正当な成績証明書が添付されていた。

 UCデービス校はこの時点ではマクダフィ校に連絡を取らず、Rongの入学を認めた。

 マクダフィ校のグリフィン校長によれば、何カ月も経った9月下旬、UCデービス校の担当者からRongに関する問い合わせの電話があったという。この電話があったのは、ロイターが公文書開示請求により、UCデービス校の入試担当事務局と元トランセンド従業員の告発者とのやり取りを入手した直後のことだった。

 UCデービス校の広報担当者は当初特定の学生について語ることはできないと言っていたが、後になって彼はRongが秋学期終了後の2015年12月に退学する予定だと認めた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米中小企業、26年業績改善に楽観的 74%が増収見

ビジネス

米エヌビディア、株価7%変動も 決算発表に市場注目

ビジネス

インフレ・雇用両面に圧力、今後の指標に方向性期待=

ビジネス

米製造業新規受注、8月は前月比1.4%増 予想と一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中