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ハーバードが絶賛する「日本」を私たちはまだ知らない

2016年5月25日(水)16時07分
印南敦史(作家、書評家)

 終章においてもそのことにページが割かれている。ただし、そこには「ハーバードの教授陣も手放しで日本を絶賛しているわけではない」という記述もある。「課題」として提示されているものは次の3つ。「①グローバル化」「②イノベーションの創出」「③若者と女性の活用」だ。

 グローバル化が遅れている理由として挙げられているのは、「変化への極度の抵抗」、そして「ローカル志向」の人の多さだ。グローバル派が増えないのは、それが日本では「出る杭」として認識されているからだそうだ。また、イノベーションの創出が昔ほど進んでいないのは、「快適な国」であることが一因であるともいう。アメリカは問題だらけの国だから、それらを解決するためにイノベーションが生まれる。しかし、日本にはそれがないということだ。このことに関する唯一のチャンスが、高齢化にあるという指摘も興味深い。


いまの日本はイノベーションを起こすチャンスだ、と前向きな意見を述べるのが、ロザベス・モス・カンター教授だ。
「日本は高齢化社会ですね。高齢化社会であることはイノベーションを生み出しやすいという利点があります。高齢者が多ければ『若い労働者が不足しているから、道路も鉄道も思うように建設できない。それならどうしようか』と考えますね。それを解決するにはイノベーションを起こすしかありません」(238ページより)

 その点も含め、若者と女性の活用が実現すれば、そこが突破口になるかもしれないという考え方だ。

 先にも触れたとおり、ハーバードから、あるいは全世界からこれだけ注目されているにもかかわらず、そうした情報は私たちのもとにはほとんど入ってこない。だからこそ、その重要な部分を開示した本書には大きな価値があるといえる。

 ただし、そのうえで求められるべきは、我々の意識の持ち方なのではないだろうか? たしかに、現在の日本の閉塞感には無視できないものがある。しかし、だからといって「もうダメだ」「先がない」と囁きあっていても、そこからはなにも生まれない。それよりも、(ダメかもしれないけれど)「これだけの可能性もある」ということを意識していくべきだということ。そうやって前向きに信じ、そこから「どうすればいいか」を考える。そんな姿勢こそが、なによりも大切なのではないかと思えるのである。


『ハーバードでいちばん人気の国・日本』
 佐藤智恵 著
 PHP新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。

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