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アメリカ社会全米を揺るがすトイレ論争
Lucy Nicholson- REUTERS
<例えば、心は女性でも身体は男性、というトランスジェンダーが女子トイレや女子更衣室に日常的に入ってくるようになったら? 拒絶するのは差別、という米政府と、出生証明書の性別通りのトイレ使用を義務付けたノースカロライナ州との間で全米が見守る法廷バトルが始まった> 写真は性別に関係なく使えるトイレ
心と体の性が一致しないトランスジェンダーの人たちの権利擁護に向けた分水嶺となりそうだ。オバマ政権は先週、全米の公立学校と大学に対して、トランスジェンダーの生徒・学生に、自身が認識する性別のトイレ使用を認めるよう義務付けるガイドラインを通達した。性による差別を禁じた連邦法の規定に基づく措置とのことだ。
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「学校が性別ごとに異なる活動や施設を提供する場合、トランスジェンダーの生徒・学生は、自身の認識する性別の活動への参加と施設の利用を認められるべきである」と、ガイドラインは記している。つまり、トイレに加えて、更衣室やスポーツチーム、学生寮に至るまで、あらゆる活動や施設が対象だ。
従わなければ補助金打ち切りも
ガイドラインに法的な拘束力はないが、差別的措置を続ければ訴訟や補助金打ち切りの可能性もあるという。同ガイドラインでは、医師の診断書の提出や出生証明書の性別変更も求めないとしている(現状では、出生証明書の性別変更は多くの州で不可能、または困難だ)。
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いまアメリカでは、トランスジェンダーのトイレ問題をめぐり激しい論争が起きている。発端は、3月にノースカロライナ州が出生証明書の性別に基づくトイレ使用を義務付ける州法を制定したことだ。それに反発した有名ミュージシャンらが同州での公演を取りやめたほか、米大統領選で共和党候補者指名を確実にしたドナルド・トランプも州法を批判した。
米司法省は、公民権法違反を理由に州法の執行停止を求めて裁判所に提訴。州政府が反訴で応じ、司法省との訴訟合戦に発展中だ。
今回の通達でオバマ政権は、トランスジェンダーの尊厳を守る姿勢をいっそう明確に打ち出した格好だ。通達はきっぱりとこう述べている。「一部の人が不快に思うからという理由で、特定のグループの生徒・学生だけに不利益を課すことは正当化できない」
© 2016, Slate