最新記事

アメリカ社会

全米を揺るがすトイレ論争

2016年5月25日(水)17時15分
ブライアン・ローダー

Lucy Nicholson- REUTERS

<例えば、心は女性でも身体は男性、というトランスジェンダーが女子トイレや女子更衣室に日常的に入ってくるようになったら? 拒絶するのは差別、という米政府と、出生証明書の性別通りのトイレ使用を義務付けたノースカロライナ州との間で全米が見守る法廷バトルが始まった> 写真は性別に関係なく使えるトイレ

 心と体の性が一致しないトランスジェンダーの人たちの権利擁護に向けた分水嶺となりそうだ。オバマ政権は先週、全米の公立学校と大学に対して、トランスジェンダーの生徒・学生に、自身が認識する性別のトイレ使用を認めるよう義務付けるガイドラインを通達した。性による差別を禁じた連邦法の規定に基づく措置とのことだ。

【参考記事】性転換するわが子を守り通した両親の戦いの記録

「学校が性別ごとに異なる活動や施設を提供する場合、トランスジェンダーの生徒・学生は、自身の認識する性別の活動への参加と施設の利用を認められるべきである」と、ガイドラインは記している。つまり、トイレに加えて、更衣室やスポーツチーム、学生寮に至るまで、あらゆる活動や施設が対象だ。

従わなければ補助金打ち切りも

 ガイドラインに法的な拘束力はないが、差別的措置を続ければ訴訟や補助金打ち切りの可能性もあるという。同ガイドラインでは、医師の診断書の提出や出生証明書の性別変更も求めないとしている(現状では、出生証明書の性別変更は多くの州で不可能、または困難だ)。

【参考記事】ミシシッピ州で「反LGBT法」成立、広範な差別が合法に

 いまアメリカでは、トランスジェンダーのトイレ問題をめぐり激しい論争が起きている。発端は、3月にノースカロライナ州が出生証明書の性別に基づくトイレ使用を義務付ける州法を制定したことだ。それに反発した有名ミュージシャンらが同州での公演を取りやめたほか、米大統領選で共和党候補者指名を確実にしたドナルド・トランプも州法を批判した。

 米司法省は、公民権法違反を理由に州法の執行停止を求めて裁判所に提訴。州政府が反訴で応じ、司法省との訴訟合戦に発展中だ。

 今回の通達でオバマ政権は、トランスジェンダーの尊厳を守る姿勢をいっそう明確に打ち出した格好だ。通達はきっぱりとこう述べている。「一部の人が不快に思うからという理由で、特定のグループの生徒・学生だけに不利益を課すことは正当化できない」

© 2016, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調

ビジネス

経済対策、事業規模39兆円程度 補正予算の一般会計

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中