最新記事

マイクロロボット

空飛ぶ昆虫ロボット。疲れたら一休み。

2016年5月22日(日)10時15分
山路達也

昆虫ロボット ハーバード大学の研究チームが、天井に止まって、エネルギー消費を抑える「RoboBees」を開発。

 物流やセキュリティ、軍事などあらゆる分野でドローンの活用が検討され始めている。航空機からラジコン機サイズまで、ドローンの大きさは様々だが、ハーバード大学 Kevin Ma博士らの研究チームが開発している小型ドローン=マイクロロボットは100mgを切る昆虫サイズで、その名も「RoboBees」という。

 2013年、Kevin Ma博士はハエ型ロボットを発表して注目を集めた。ハエロボットの羽根はカーボンファイバーの骨格で補強されたポリエステルの膜でできており、電圧をかけると変形する圧電素子によって、毎秒120回羽を羽ばたくことができた。

 だが、昆虫サイズのマイクロロボットを実用化する上で最大の課題はバッテリー。現在のところ、こうしたマイクロロボットを飛行させるには外部から電線を通じて電力を供給する必要がある。今後バッテリーが大容量化したり、周りを飛び交う電波などから電力を取り出す技術(エネルギーハーベスティングという)が進歩したりするとは予想されているが、マイクロロボットに搭載できる重量は限られているし、エネルギーハーベスティングで取り出せる電力も多くはない。マイクロロボットのエネルギー消費自体を減らす工夫も必要になってくる。

 空飛ぶ生き物はどうやって、エネルギー消費を抑えているのか?
 極めてシンプルな回答は、飛び続けずにどこかに留まって休むことだ。研究チームは、RoboBeesにこの機能を取り込もうと考えた

 とはいうものの、かぎ爪や粘着質の素材を使うと、いったんどこかに留まったあと、再び飛び立つためには複雑なメカニズムがいる。磁石だと留まれる場所が限定される。

 研究チームが選んだのは、静電気だった。プラスチックの下敷きで髪の毛をこすり、下敷きを持ち上げると髪の毛が逆立つという、あれだ。

obotGif.gif

 RoboBeesの上部には、電極とボリウレタンのフォームで構成される13.4mgほどのメカが装備されている。これに通電することで、ほとんどの物質の表面にぴたりとくっつくことができる。通電を止めれば、表面から離れられる。ものの表面に留まるためにも電力は必要だが、飛び続けている場合に比べると1,000分の1で済むという。

 現在のRoboBeesは、留まるためのメカが上部についているため、天井に張り付くことしかできないが、研究チームはメカニカルデザインを改良して、さまざまな場所に留まれるようにする予定だ。

 バッテリーやエネルギーハーベスティング技術が進化するにはまだ数年はかかるだろうが、虫のようなマイクロロボットやドローンが私たちの周りを飛び回るようになるのはそう遠い未来ではないかもしれない。願わくば、その用途が多くの人の幸せにつながるものであってほしいが。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中