最新記事

自動車

日産ゴーン、三菱に賭け世界販売1000万台狙う、実現には曲折も

2016年5月22日(日)12時25分


益子氏への信頼

 三菱グループ役員らによると、今回の出資は「三菱グループが支援できないから日産に助けを求めたものではない」。とすれば、ゴーン氏はなぜ、かつてそでにした三菱自への出資を、しかも燃費偽装というスキャンダルの渦中で自ら決断したのか。

 燃費偽装の発覚により、三菱自の株価は5年前のほぼ半分に急落した。投資収益率を強く意識するゴーン氏は、三菱自株を割安に買える絶好のチャンスを見逃さなかった。

 ある関係者は「補償額がいくらになるか分からない段階で日産が出資に踏み切ったのは、補償額の大部分を日産が決めることができるからだ」と明かし、すでに提携する仏ルノーを合わせたグループとして「ゴーンは自動車産業のトップを目指し、世界販売1000万台超えを狙っている。100万台が上乗せできる三菱自は魅力的だった」と話す。

 ゴーン氏が思い切った判断を下した背景には、益子修・三菱自会長に対する信頼があった。三菱商事出身の益子氏は04年、リコール隠しで信用が失墜した三菱自に再建請負人として送り込まれ、翌年に社長に就任した。英語に堪能な益子氏は、ゴーン氏と差しで話せる間柄だ。

 ゴーン氏が注目したのは、益子氏が示した開発部門に対する厳しい姿勢だった。益子氏は開発部門の閉鎖性が不正を生む原因だと判断し、不正発覚後にゴーン氏に開発部門へのエンジニア派遣と現場改革を依頼した。

 「益子さんは三菱自の閉鎖的な組織に危機感を持っており、営業や財務など、外から人材を入れて改革を進めた。しかし、戦前の三菱航空機の流れをくむ開発部門だけは手をつけられなかった。独善的な技術陣だった」と三菱グループのある幹部は指摘する。

 不正を公表する2日前の4月18日、益子氏は燃費不正の説明と謝罪のため自ら日産本社に足を運び、ゴーン氏に「開発トップを派遣してほしい」と打診した。これを受けて、ゴーン氏も「益子会長は社内の問題を隠さず、真剣に対処したいと考えていた。日産としてサポートしたほうがいいと思った」と、出資発表会見やその後の各社取材で繰り返し強調している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中