冷戦危機の舞台裏を描く『ブリッジ・オブ・スパイ』に見る、交渉と処世の極意
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対立する双方に「橋」をかける――ドノヴァンの交渉術とは
難題に取り組むドノヴァンに一貫している交渉術の特徴は、「信念」「洞察力」「大局観」の3点に要約できるだろう。正義と公平を貫き、立場の異なる相手にも敬意を払う。双方の主張と思惑を深く洞察し、合意できるポイントを模索する。現状を俯瞰し、将来起こり得る事態を見据えて、"最適解"を導き出す。川や海峡で隔てられた両岸に橋をかけるように、利害や思惑が異なる双方をつなぐはたらきをする人を、ここでは「橋」タイプと呼びたい。
映画における交渉の過程をひとつ見ていこう。ドノヴァンは被告人アベルとの接見を経て、彼もまた祖国への忠誠心を守る男なのだと理解し、全力で弁護することを決意。さらに裁判の土壇場で、ドノヴァンは裁判長に対し、ソ連スパイを生かしておけばいつかスパイ交換が必要になった時に役立つと説得し、死刑宣告を回避した。アベルの命を救い、米政府に将来の"保険"を提供することで、ドノヴァンは最初の大きな「橋」渡しに成功したのだ。
また、タフな交渉をやり抜く資質として、失敗や不運、相手の無理解や周囲からの非難にも、決して折れない強い心が大切だ。それに大局を見通す力が加わるからこそ、困難な状況を打開できる。ブレのない姿勢は、かたくなな相手からもやがて信頼を得ることになる。スパイ裁判を通じて、ドノヴァンとアベルの間にも信頼と絆が生まれるが、これがのちの重大な局面でしっかり活きてくる。
かくして映画は終盤、東西ドイツの間にかかるグリーニッケ橋で、スパイ交換のハイライトを迎える。両陣営の"かけ橋"となったドノヴァンを象徴する、緊迫の名場面だ。
「壁」になるのは誰?
対立する双方をつなぐ人が「橋」タイプなら、障壁を作って交流や相互理解を阻む人は「壁」タイプということになろうか。ベルリンの壁を築き、人々の行き来を制限した東ドイツの軍人や役人はその典型だ。現状を絶対視して変化を拒む人、常識や多数意見に盲従する人も「壁」タイプに含めるなら、ソ連スパイを弁護したドノヴァンを責め、彼の家族まで攻撃した当時の世間も該当する。
もちろん、変化より現状維持が適切な場合もあるし、何かを守るために必要な壁もある。一方で、壁にぶつかり、それを乗り越えることが成長の機会になるケースもあるだろう。映画でも、ベルリンの壁を越え亡命しようとして撃たれる東独市民と、ニューヨークでフェンスを乗り越えて遊ぶ子供たちが、車窓越しのドノヴァンの視点で対比的に描かれる。
通勤電車の乗客がドノヴァンを見る目を変えたように、「橋」と「壁」の2タイプは永続的な区別ではなく、時と場合によって切り替わるものかもしれない。とはいえ、こうした視点を自覚的に持つことは、政治やビジネスの交渉ごとに携わる人に限らず、私たちが日々仕事やプライベートで人と接する際に役立つように思う。
歴史を学び世界を知り、現代を生きる糧とする
『ブリッジ・オブ・スパイ』は、世界が戦争勃発の恐怖に怯えていた半世紀前の歴史を、極上のサスペンスと重厚なドラマを楽しみつつ学べる傑作だ。さらに、主人公ドノヴァンの交渉術をはじめ、複雑で変化の早い現代社会を生き抜くヒントが満載の本作は、未見の方はもちろん、二度、三度と観直す方にも常に新たな発見をもたらしてくれるだろう。
○映画『ブリッジ・オブ・スパイ』公式サイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
Blu-ray & DVD 商品情報
ブリッジ・オブ・スパイ 2枚組ブルーレイ&DVD
〔初回生産限定〕
2016年05月03日発売
希望小売価格 ¥3,990+税/FXⅩA-64746/4988142167217
収録特典
■冷戦時代の1つの真実 〜ブリッジ・オブ・スパイ
■1961年 ベルリン 分断された都市の再現
■U-2偵察機 撮影秘話
■スパイの交換 〜息詰まる最終局面の追憶
■クレジット
*すべてブルーレイディスクのみの収録特典
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