トルコから名誉棄損罪で訴えられてわかったドイツの人権レベルの低さ
ドイツのコメディアンがトルコ大統領をネタにして訴えられ、母国で被告になってしまった衝撃
似た者同士? 片っ端から告訴しまくるエルドアン(右)と避けきれなかったメルケル Kayhan Ozer-REUTERS
トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は4月12日、彼を侮辱した容疑でドイツのコメディアン、ヤン・ベーマーマンを告訴した。ベーマーマンはテレビ番組で詩を朗読中、エルドアンを「同性愛者」「卑劣」などと呼んだという。
驚くのは次の展開だ。アンゲラ・メルケル独首相がこの件で、ドイツの検察当局が刑事手続きに入ることを容認したのだ。トルコ政府による告発がヨーロッパの中心ドイツにまで及んで表現の自由を侵害するのは警戒すべき事態で、ヨーロッパの指導者がそれを許した事実は深刻だ。ドイツ政府内では、外国政府からの告訴を受け入れる古い法律を廃止すべきとの声が高まっている。
エルドアンは、批判や侮辱を受ければ片端から告訴することで知られている。その政治手法はパロディーにうってつけだ。トルコの法務大臣によると、大統領に対する名誉棄損の罪で訴追しているケースは1800件を超える。
【参考記事】民主主義をかなぐり捨てたトルコ
2015年10月には、トルコ公衆保健局の職員だったビルギン・チフチが、エルドアンを『ロード・オブ・ザ・リング』に登場する「ゴラム」になぞらえた罪で起訴された。エルドアンを「白熱電球」と呼ぶのも、エルドアンの顔写真をダーツの的にするのも、トルコの刑法では「アウト」だ。今月23日には、エルドアンを「詐欺師」と呼び、旧ソ連の強権的中央アジア国家キルギスタンなどにトルコをなぞらえ「エルドアニスタン」と皮肉ったオランダ人ジャーナリストのエブル・ウマルもトルコ当局に身柄を拘束された。
ドイツにもなかった表現の自由
もちろんトルコの民主主義は見せかけで、実態はエルドアンが支配する独裁国家だ。国民を黙らせるために名誉棄損罪が乱用するのは日常茶飯事、言論の自由はかつてないほど脅かされている。
【参考記事】改革派エルドアンはプーチン並みの強権主義者
政治的リーダーには透明性が必要で、国民が自由に意見を言えるためには政治家に対する批判は民間人に対する批判よりも広く許容されなければならない。欧州人権裁判所もそう定めている。トルコはその判例に従う義務があるにも関わらず、表現の自由を踏みにじり続けている。言論の自由の侵害にあたるとみられる判決数で、2015年はロシアに続くワースト2位だった。
一方ドイツのほうも威張れる立場にない。ベンマーマンのケースで問題となったのはドイツ刑法の外国の指導者を侮辱することを禁じる条項だが、その他にも名誉棄損を有罪にする法律が多数存在する。2015年に国際新聞編集者協会(IPI)が発表した資料によると、ドイツは他のヨーロッパ諸国と比べて言論に関する罪で告訴される件数が多く、2013年には当局が刑法の名誉棄損罪を適用し、侮辱や中傷、名誉棄損の容疑で有罪とされたケースが2万2000件に上った。そのうち1087件には実刑判決が言い渡された(ドイツで名誉棄損罪の法定刑は5年以下の懲役)。