最新記事

対日観

中国は反日? 台湾は親日? 熊本地震から考える七面倒くさい話

2016年4月26日(火)16時12分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 これが中国専門家としての模範解答だろうか。「政治の国」中国では外交関係が社会のムードに与える影響は大きいのでこの点は間違いないと考えるが、民間交流やくまモンがどれほどの影響を与えているのかについては疑問もある。500万人はすごい数に思えるが、13億人という総数から見ればごくごく一部でしかないのだ。

 この手の話となると、日中関係という枠組みでストーリーを作ることが求められ、日本絡みの要因が中国を変えたというシナリオにしてしまいがち。だが実際には中韓関係などでも似たような変化は見られる。視野を広げてみればまったく違う世界が見えてくる。

 個人的には、高等教育を受けて一定以上の知識水準と収入を得た都市住民が増えていることのほうが影響が大きいように感じる。中国語では学歴が高いことを「文化がある」というが、そういう人ほど海外ニュースをよく目にし、バカな差別も少なく、ついでに公共空間で大声で騒いだりしないなどマナーが良かったりもする。中国の大学卒業生は年間700万人超。その多くが都市でサラリーマンとして働いている。若い高学歴都市住民の数が増え、目立つようになったことが中国の変化の要因ではないだろうか。

 冒頭で紹介したような質問にちゃんと答えるとなると、ここまで長い話を説明しなければならない。わかりやすいストーリーではないが、それでも知っていて損はないと考える。わかりやすいイメージで期待していても裏切られてがっかりするのがオチだからだ。

 今も強く印象に残っているのは2008年の四川大地震。日本の救助隊が遺体を前に黙祷する姿が中国メディアに大々的に取り上げられ、日本叩きの急先鋒として知られる環球時報までもが「日本人はすばらしい」との記事を掲載していた。先輩の中国専門家までもが「中国は変わった! 反日は終わった!」と大興奮した記事を書き散らかしていたが、その後の展開は皆さんご存知のとおり。高学歴者の増加などの要因があっても、政治によって社会のムードががらりと変わるのが中国だ。

 勝手に期待して勝手に裏切られても疲れるだけ。わかりやすいストーリーに一喜一憂するよりも、冷静な態度で状況を認識することをオススメしたい。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の若年失業率、4月は14.7%に低下

ワールド

タイ新財務相、中銀との緊張緩和のチャンス 元財務相

ワールド

豪政府のガス開発戦略、業界団体が歓迎 国内供給不足

ビジネス

日経平均は反落、朝高後軟調 3万9000円再び下回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中