最新記事

安全保障

北朝鮮の潜水艦ミサイルが日本にとって危険な理由

23日のSLBM発射実験は「失敗」との分析もあるが、北の技術は確実に進展しており、集団的自衛権を持つ日本にとっても厄介な話になる

2016年4月25日(月)15時42分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

繰り返される発射実験 4月23日に東岸沖で発射された潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の写真を、24日に朝鮮中央通信(KCNA)が公表。韓国は「失敗」と分析する一方、北朝鮮は「成功」と発表しているが KCNA/via REUTERS

 朝鮮労働党機関紙・労働新聞など北朝鮮メディアは24日、金正恩第一書記が、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を現地で指導したと、多数の写真を添えて報道した。

 それによると、今回の発射では新たに開発された固体燃料エンジンの性能や飛行制御、弾頭の動作が検証され、「水中攻撃作戦の実現のための要求条件を十分に満たした」としている。

 また、金正恩氏はこれを受けて、いつでも米国の「後頭部」に痛撃を与えられるようになったとして、満足を示したという。

 一方、発射されたミサイルの飛距離が30キロにしかならなかったことから、韓国軍は失敗だった可能性も含めて分析している。ただ、これまでに比べれば飛距離が大幅に伸びているのも事実で、SLBM技術の確実な進展をうかがわせる。

 通常、SLBMは核兵器の運搬手段であり、それを積んだ潜水艦は水中に潜んで敵国の深部をねらう。仮に実戦配備されれば、日本にとっては厄介な話になる。

 筆者が言わんとするのは、単に「SLBMで狙われたらヤバい」というだけの話ではない。周知の通り、北朝鮮の主な標的は米国だ。そして日本は、安倍政権が成立させた新たな安保法制により集団的自衛権の行使に踏み込んでいる。つまり、北朝鮮のミサイル潜水艦が米国に対して怪しい動きを見せたら、実力を行使してでも阻止すべき義務を負っている訳だ。

(参考記事:いずれ来る「自衛隊が北朝鮮の潜水艦を沈める日」

 そうなったらもちろん、北朝鮮も黙ってはいないだろう。日本に向けて、直接的な「核の恫喝」を繰り返すはずだ。そして、これからそう遠くない時期に、北朝鮮は日本列島を「核の射程」に捉えている可能性が高い。

 大手新聞などの記事を読むと、金正恩氏は米国に対話を求め、揺さぶりとして核・ミサイル実験を繰り返しているとの分析を見かける。しかし、現実はそうではなかろう。彼は1日も早く核兵器を実戦配備し、恫喝としての対外交渉に乗り出そうとしているように見える。そしてその裏には、人権問題で追い詰められ、暴力に頼るしかなくなった、正恩氏の絶望的な現実がある。

(参考記事:北朝鮮「核の暴走」の裏に拷問・強姦・公開処刑

 彼が核武装の腹を決めており、そのために必要な能力の多くを北朝鮮が備えてしまっている以上、われわれに残された時間は多くはない。今からでも、北朝鮮とどう向き合うべきか、本質的な部分を再検討すべきではないだろうか。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中