最新記事

北東アジア

迎撃ミサイル防衛に潜む限界

「ミサイル化」と核配備を進める北朝鮮や中国に対して、大規模な軍隊とTHAADでは軍事的にも財政的にも対応できない

2016年4月19日(火)17時16分
ロバート・E・ケリー(本誌コラムニスト)

緊迫 米韓合同軍事演習で行われた上陸作戦を想定した訓練 Allison Lotz-U.S. MARINE CORPS

 北朝鮮は1月と2月に核実験と弾道ミサイルの発射実験を実施。米本土への核攻撃をちらつかせている。中国の人民解放軍はアメリカの海軍力に、安価なミサイルとドローンの群れで対抗しようとしている。

 航空母艦や集中的な米軍基地の増設では、ミサイルやドローンの波状攻撃に対する防衛は難しいだろう。日本政府は対立国の軍事力強化を踏まえ、自衛隊が国土を遠く離れて戦える法整備を推し進めている。

【参考記事】安保法施行で日本は「専守防衛を転換」したのか

 これが、北東アジアの軍備競争の新しい姿だ。この地域の軍事的均衡は数十年間、規模も費用も莫大だが、安定した抑止力に根差してきた。

 冷戦時代は、従来型の大規模な軍事力が基本だった。ソ連と中国、北朝鮮は陸上で部隊と兵器を大々的に展開。その量的優位に、アメリカと韓国、日本は質的に優れた武力と技術で対抗した。

 巨額の軍事費と人的資源の集約が必要となるが、平和は保たれていた。核兵器とミサイルは、ヨーロッパと違って、北東アジアの地域戦略の中心ではなかった。基本的に従来の抑止力が機能していたのだ。

 それが最も顕著だったのが、朝鮮半島だ。ほんの10年ほど前は、第2次朝鮮戦争が起きれば前回と同じような戦いになると思われていた。大規模な軍隊が衝突する第二次大戦のような戦闘を、アメリカの強力な空軍力が補うかたちだ。

 しかし、これまで機能していた均衡が最も明白に崩れつつあるのも、朝鮮半島にほかならない。朝鮮人民軍は従来型の軍隊のままでは、(例えば米韓の)連合軍の質的な向上についていけない。その差を埋めるのが核兵器であり、認めたくはないが、北朝鮮は今や核保有国だ。

【参考記事】北朝鮮核実験とアメリカの忍耐

 4回の核実験を経て、彼らは機能し得る核弾頭を手にしたと思われる。4回目は核融合に成功したとみられ、強力な水素爆弾の開発が進んでいることを示唆している。先月下旬には5回目の核実験の準備が本格化していると報じられた。今後は核弾頭をミサイルに搭載できるように小型化し、誘導システムの改良を続けるだろう。

 国際社会の制裁を受けながらもここまで到達したことを考えれば、これらの攻撃力を実現する可能性は高い。周辺国の首都を攻撃できるようになる日は近く、10年後には米本土も射程に捉えるだろう。

先制攻撃という選択肢

 地域安全保障の「ミサイル化」は、まったく新しい防衛計画と軍事費拡大の時代が始まる前触れだ。もちろん、従来の抑止力も残る。米軍は日本と韓国に駐留を続けるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中