カトリック教会に盾突いた記者魂
『扉をたたく人』などインディーズ系の作品で名を上げたマッカーシー監督は、俳優からキャリアをスタートした。悪徳記者を演じたドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー』では、製作者のデービッド・サイモンから学ぶものがあったらしい。
記者の日常から新聞社内の微妙な上下関係までジャーナリズムをつぶさに見せる姿勢は、サイモンの作風を思わせる。紙媒体への深い敬意も共通している。
『スポットライト』にはもちろんインターネットの出番もあるが、調査の突破口を開いてくれるのは紙だ。フォルダーからはみ出した資料や輪転機から印刷されて出てくる新聞が、大きなターニングポイントとなる。
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報道班と同じように、1人の俳優だけが活躍する映画ではないが、ラファロの演技は表彰もの。彼の実直そうな持ち味が今回ほど生きた作品はない。ラファロが演じるマイクは聖人ではなく、厚かましく粗野な面もある。それでも観客がそっぽを向かないのは、根っからの人の良さが感じられるからだ。
舞台になるのは編集会議室や図書館の地下室、弁護士事務所など冴えない場所だ。だが真実が浮かび上がるにつれ、こうした場所が情報の宝庫としてミステリアスな魅力を帯びてくる。
目を疑う虐待事件の規模
情報量の多いせりふに映像がしっくり合わない場面もある。スクリーンにのんびり走るタクシーが映し出され、そこにマイクが携帯電話で興奮気味にまくしたてるせりふが重なるシーンはおかしな感じだ。マイクの緊迫した口調と車の速度がかみ合わず、思わぬ笑いを誘う。
演技はどれも卓越している。キートンは社交性に優れ機転の利くロビーを知的に好演した。マクアダムスは決して多いとはいえない出番を存分に生かしてサーシャを演じ、はつらつとした表情の陰で募る不安と不快感を鮮やかに表現した。
サーシャと敬虔なカトリック教徒の祖母の関係に触れる以外、映画は記者たちの私生活を掘り下げない。一心不乱に仕事に打ち込む姿勢が恋人や家族との関係にどう響いたのか、もう少し描いてもよかっただろう。
02年1月のスクープ報道後もスポットライトのチームは追跡記事を書き続け、他紙もこれに続いた。
映画のエンドクレジットには、カトリック司祭による児童虐待事件があった世界中の地域がアルファベット順で列挙される。オーストリア、ブラジル、カナダ、イタリア、ケニア、メキシコ、ポーランド、スペインにタンザニア。リストは目を疑うほど長く、スクリーンは何度も切り替わる。
これほど悪質な犯罪を、カトリック教会は止める力があるにもかかわらず、止めるどころか組織ぐるみで隠蔽した。そんな事実は知りたくなかったが、知らずにいるのはもっとつらい。
そう考えると、スポットライトの記者たちが身近なヒーローとして輝いて見える。
© 2016, Slate
[2016年4月19日号掲載]