庶民の物価ジョークから考える中国経済改革の行方
第一に生産量のミスマッチだ。「価格高騰→農家が生産を増やす→供給過剰で価格下落→農家が供給を減らす→価格高騰......」という構図がえんえんと繰り返されている。特に子ブタの生産から肥育までタイムサイクルが長い豚の場合は、ほぼ3年周期で価格が高騰する。同じことを繰り返しているのだから農家も対策が立てられそうなものだが、同じ失敗が繰り返されている。
第二に投機マネーの流入だ。2010年に中国で話題となったのが「ニンニク・バブル」だった。鳥インフルエンザに効果があるとのデマが広がったことをきっかけに、ニンニク価格が急騰。まだまだ値上がりするはずだと買い占め・売り惜しみを横行し、さらなる価格高騰の要因となった。中国ではさまざまな商品が投機の対象となり、プチバブルが繰り返されてきた。ワイン、白酒、切手、プーアル茶、唐木などなど。保存が利かない葉物野菜は別として、ニンニクや豚肉とて例外ではない。
リコノミクスの改革はこうした中国的要因の解消を目的としていた。例えば農業企業、大農場の解禁だ。零細農家はどうしても短期的な利益から生産量を変化させてしまうが、企業や大農場などの大規模な経営体ならば長期的視野で生産量の管理が可能となる。そのお手本が日本だ。かつては零細養豚業者が主体で「ピッグ・サイクル」と呼ばれる周期的な価格上昇があったが、大規模農家が主流となったことで価格が安定した。
しかし"一応"共産主義の中国において、農業企業や大規模農家の奨励は政治的に敏感なテーマであり、反対派も少なくない。プランそのものはすばらしいものだったが、気づけばたいした前進もなく忘れられようとしている。
野菜先物市場を開設することで価格の乱高下を抑制するとの提言もあるが、無知でか弱い農民を資本主義マーケットに放り込むのはいかがなものかとの反対意見が強く、遅々として進まない。
リコノミクスの目玉は投機マネーの取り締まり。中小企業を中心に実体経済へとマネーを誘導すると高らかに宣言したが、現実はニンニク・バブル再び、だ。
13億人の大国で改革を断行するには大変なエネルギーが必要となる。習近平国家主席に権力が集中するなか、李克強首相にはその力が失われてしまったかのようだ。一方、絶大な権力を手にした習近平国家主席はというと、経済よりも政治権力闘争のほうに力点を置いている。これでは経済改革が進まないのも仕方がない。繰り返されるジェットコースター物価を前に、庶民にできるのはジョークとダジャレで皮肉を言うことしかないようだ。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。