ブリュッセルが鳴らすサイバーテロへの警鐘
では世界は、こうしたインフラへの攻撃に対してどんな対処ができるのか。その議論は、インターネット発祥の地であるアメリカが牽引している。
ジョン・ケリー米国務長官は2015年5月に、「サイバー空間にも国際法の基本的なルールが当てはまる」と語っている。現在の国際法に則って、サイバー攻撃に対処すべきだとしているのだ。米国務省は、ダムなどへの攻撃は、国際法に照らして、アメリカに対する武力行使だと認識している。そのほか、原子力施設でメルトダウンを起こしたり、航空管制部への攻撃で飛行機を衝突させることも、武力行使とみなされる。そう考えれば仮にイランのダム攻撃が現実に破壊工作を成功させていれば、国際紛争になりかねない行為だったと言える。
現在、米政府はサイバー攻撃に対して経済制裁を駆使して対処している。北朝鮮によるソニー攻撃を受けて、2015年4月にバラク・オバマ大統領は大統領令を発令し、サイバー攻撃に関与した人や組織に対しても制裁を課せるようにした。制裁を担当する米財務省で勤務するある関係者は2015年、筆者の取材に、「サイバー攻撃に対して制裁措置が行えるようになったのは、米政府にとって大きなステップだと言える」と語っている。
世界ではこうした議論が活発に行なわれているが、残念ながら、日本ではほとんど耳にしない。安全保障関連法や武器輸出規制の変化により、国際的な立ち位置が変わりつつある日本だが、これからは「サイバー・パールハーバー」のような問題にも真剣に向き合う必要がありそうだ。
[執筆者]
山田敏弘
ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などで勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員として国際情勢の研究・取材活動に従事。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)。