ブリュッセルが鳴らすサイバーテロへの警鐘
ハッカーは、偽メールにウイルスを仕込んだりしてパスワードなどを盗み、個人アカウントを乗っ取っていた。いわゆる「スペアフィッシング」と言われる手口だ。筆者の取材に元国防総省関係者は、「中国人やロシア人がよく使うやり口だ」と語る。「目的は、原子力についての情報を盗み、自らの核開発に利用したいということもあるし、有事に向けて"敵国"の国内にある攻撃対象についての情報を収集する意味合いもあるだろう」
サイバー攻撃によって原子力施設が破壊行為を受けるというシナリオは、すでに現実になっている。アメリカはイスラエルと協力してスタックスネットというマルウェアを作り、2009年にイランの核燃料施設にサイバー攻撃を仕掛けた。米政府の極秘作戦「オリンピックゲーム」と呼ばれるこのサイバー攻撃は、遠隔操作でウランを濃縮する遠心分離機を破壊している。今から7年前の時点ですでに、こうした攻撃は実行可能だった。
インフラを狙った攻撃は、原子力施設以外でも多数起きている。今回のベルギーテロを受け、EUテロ対策主席調査官であるジル・デケルコブ氏は3月26日、ベルギーのメディアに対して「今後5年以内にインターネットを使ったインフラ攻撃が行われても驚きはしない」と語っている。原子力施設のみならず、エネルギー関連施設、飛行機や鉄道といった交通インフラもサイバー攻撃テロの標的になる可能性があると指摘する。「原子力発電所やダム、航空管制や鉄道開閉所などをコントロールするスキャダ(監視・制御システム)に侵入されるという形になるだろう」
3月24日、アメリカの司法省は、イラン国内にいるイラン人コンピューター専門家7人を起訴したと発表した。イランで国軍とは別に存在する軍事組織、イラン革命防衛隊との密接な関係が指摘されているこの7人は、アメリカのインフラに対してサイバー攻撃を行っていた。
ロレッタ・リンチ司法長官は記者会見を開いて、この7人は2013年にニューヨーク州にあるボウマン・ダムのスキャダ(監視・制御システム)にサイバー攻撃で不法に侵入したと説明した。イラン政府の後ろ盾があるイラン人ハッカーらが、ダムのシステムを遠隔操作で乗っ取ろうとしたのだ。このダムは決して規模は大きくないが、ダムがテロの標的となる事態は市民にとっても脅威だ。