最新記事

朝鮮半島

中国、アメリカに踊らされたか?――制裁決議とTHAAD配備との駆け引き

2016年3月1日(火)19時45分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

米中の駆け引き 韓国へのTHAAD配備が交渉の道具に使われたのか(写真は先月訪韓した中国の武大偉特別代表=左) Kim Hong-Ji-REUTERS

 中国の武大偉・朝鮮半島問題特別代表が2月28日訪韓し外交部で会談した。THAADを韓国に配備するとしたアメリカに激しく反対した中国は、韓国配備を延期したアメリカに踊らされ、厳しい北朝鮮制裁決議に賛同したのでは?

THAADに触れなくなった米中と中韓

 2月17日付け本コラム「対北朝鮮制裁に賛同の用意あり――中国訪韓し、韓国のTHAADの配備を牽制」で書いたように、2月16日、第7回の中韓外交部門ハイレベル(次官級)戦略対話をソウルで行なうために、中国外交部の張業遂(ちょう・ぎょうすい)・常務副部長が訪韓し、韓国の韓国外務省の林聖男(イム・ソンナム)第一次官と対談したことを伝えた。そこでは中国が「北朝鮮への国連安保理制裁に賛同の用意があることを伝えたが、但しTHAAD(高高度迎撃ミサイル)の韓国配置をしないのが条件だ」としていると書いた。

 するとすかさず韓国外務省は「交換条件ではない」と、中国の「交換条件」的発言に強く反論している。

 ところが2月23日にワシントンで開かれた米中外相会談(王毅外相とケリー国務長官)では、国連安保理における対北朝鮮追加制裁決議案に関して大筋合意しながらも、THAADの韓国配備には言及していない。

 2月28日に武大偉・朝鮮半島問題特別代表が訪韓し、韓国の黄浚局(ファン・ジュングク)外務省朝鮮半島平和交渉本部長と会談し、中国が制裁決議に賛同する旨を伝え、6カ国協議の重要性に関して話しあった。

 このときにも韓国におけるTHAAD配備問題に関しては触れていない。

 これまであれだけ「THAADの韓国配備反対!」を強烈に叫び続けていた中国が、王毅氏にしろ、武大偉氏にしろ、ニコニコとしていて何も言わなくなったのは、アメリカがTHAADの韓国配備に関して譲歩したからとしか思えない。

新華網がTHAAD配備延期を伝えた

 日本ではあまり報道されていないが、中国政府の通信社ウェブサイト「新華網」は2月24日「米韓はTHAAD配備聯合工作チーム設立を延期させる」という見出しで、韓国国防省スポークスマンの話を伝えた。それによれば、23日に米韓で署名することになっていたTHAADの韓国配備聯合工作チームの設立を「一両日延期する」とのこと。

 その同じ日に王毅外相とケリー国務長官がワシントンで制裁決議案に関して合意したというのは、「偶然」では説明できない。

 ということは、水面下では「一両日の延期」ではなく、実際上「無期延期」という交渉が成されていたのではないかと推測される。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中