最新記事

外交

アメリカと対等ぶるロシアはもう終わっている

2016年3月30日(水)19時33分
アリエル・コーエン(ディニュー・パトリシウ・ユーラシアセンター上級研究員)

 経済の多様化に失敗したロシアでは、新しい産業が生まれておらず、外国人居住者は大挙してロシアを後にしている。欧米出身の外国人数は、2014年1月から翌年1月までの1年間で34%減少した。

 縁故主義も蔓延している。政府の重要ポストには治安当局高官の子息が名を連ねる。ロシア連邦安全保障会議書記長ニコライ・パトルシェフの2人の息子は、ロシア国営の農業銀行とガスプロムネフチにそれぞれ在籍。ロシア対外情報庁長官で前首相のミハイル・フラトコフの2人の息子も、一人はロシア開発対外経済銀行、もう一人は大統領府で課長補佐を務める。プーチンの側近中の側近で大統領府長官セルゲイ・イワノフの息子は、ロシア第2位の保険会社でガスプロムなど巨大企業の保険を扱うソガス(SOGAZ)の代表取締役だ。

「ゴルバチョフは国家反逆罪」

 一方で、教育や医療など元々貧しいロシアの社会システムは輪をかけて悪化している。財政引き締めの一環で、医療に従事する多数の公務員が削減の対象となったのもその例だ。1月には病院閉鎖や合併を盛り込んだ医療制度改革に反対する人々がモスクワに集まり、抗議活動を行った。

 わずかながら残っていたロシアの政治的多様性は消滅に向かい、リベラル派の粛清は続いている。今のロシアは異様で恥ずべき状況にある。

 影響力のある映画監督でプーチン政権の讃美者としても知られるニキータ・ミハルコフは、ゴルバチョフとエリツィンがソ連を崩壊させたことは国家反逆罪に当たるとし、国として起訴するよう提言し波紋を広げた。ロシア正教会は高校の文学カリキュラムの改定を呼びかけ、ロシアを代表する劇作家アントン・チェーホフの作品を削除することを盛り込んだ。

 こんなロシアに、ロシア人も見切りをつけはじめている。2014年の1~8月には、推定203,000人がロシア国外へ移住した。経済危機直後の1999年に記録した215,000人を上回るペースだ。

 今のロシアは2008~09年に経済危機に直面していた頃よりも暮らしにくく、1990年代や2000年代初期に比べると格段に活気が失せているのは明らかだ。

 ロシアのエリート層は、今のロシアに必要なのは構造的な経済改革とそれに伴う法整備であると理解している。経済改革には政治的な自由が必要だということも。しかし、前副首相兼財務相のアレクセイ・クドリンやロシア貯蓄銀行(スベルバンク)の頭取ゲルマン・グレフが実質的な権力を握る中、プーチンと彼を支えるKGB(旧ソ連の秘密警察)出身のベテラン政治家たちが、経済の構造改革を求める「システム自由主義」を黙って見逃す気配はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

現代製鉄、米工場建設を積極検討

ビジネス

英財政赤字、12月は市場予想以上に膨らむ 利払い費

ビジネス

トランプ氏の製造業本国回帰戦略、ECB総裁が実効性

ワールド

中国、国有金融機関に年収上限設定 収入半減も=関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 7
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 8
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 9
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 10
    「敵対国」で高まるトランプ人気...まさかの国で「世…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中