アメリカと対等ぶるロシアはもう終わっている
経済の多様化に失敗したロシアでは、新しい産業が生まれておらず、外国人居住者は大挙してロシアを後にしている。欧米出身の外国人数は、2014年1月から翌年1月までの1年間で34%減少した。
縁故主義も蔓延している。政府の重要ポストには治安当局高官の子息が名を連ねる。ロシア連邦安全保障会議書記長ニコライ・パトルシェフの2人の息子は、ロシア国営の農業銀行とガスプロムネフチにそれぞれ在籍。ロシア対外情報庁長官で前首相のミハイル・フラトコフの2人の息子も、一人はロシア開発対外経済銀行、もう一人は大統領府で課長補佐を務める。プーチンの側近中の側近で大統領府長官セルゲイ・イワノフの息子は、ロシア第2位の保険会社でガスプロムなど巨大企業の保険を扱うソガス(SOGAZ)の代表取締役だ。
「ゴルバチョフは国家反逆罪」
一方で、教育や医療など元々貧しいロシアの社会システムは輪をかけて悪化している。財政引き締めの一環で、医療に従事する多数の公務員が削減の対象となったのもその例だ。1月には病院閉鎖や合併を盛り込んだ医療制度改革に反対する人々がモスクワに集まり、抗議活動を行った。
わずかながら残っていたロシアの政治的多様性は消滅に向かい、リベラル派の粛清は続いている。今のロシアは異様で恥ずべき状況にある。
影響力のある映画監督でプーチン政権の讃美者としても知られるニキータ・ミハルコフは、ゴルバチョフとエリツィンがソ連を崩壊させたことは国家反逆罪に当たるとし、国として起訴するよう提言し波紋を広げた。ロシア正教会は高校の文学カリキュラムの改定を呼びかけ、ロシアを代表する劇作家アントン・チェーホフの作品を削除することを盛り込んだ。
こんなロシアに、ロシア人も見切りをつけはじめている。2014年の1~8月には、推定203,000人がロシア国外へ移住した。経済危機直後の1999年に記録した215,000人を上回るペースだ。
今のロシアは2008~09年に経済危機に直面していた頃よりも暮らしにくく、1990年代や2000年代初期に比べると格段に活気が失せているのは明らかだ。
ロシアのエリート層は、今のロシアに必要なのは構造的な経済改革とそれに伴う法整備であると理解している。経済改革には政治的な自由が必要だということも。しかし、前副首相兼財務相のアレクセイ・クドリンやロシア貯蓄銀行(スベルバンク)の頭取ゲルマン・グレフが実質的な権力を握る中、プーチンと彼を支えるKGB(旧ソ連の秘密警察)出身のベテラン政治家たちが、経済の構造改革を求める「システム自由主義」を黙って見逃す気配はない。