新華社が「中国最後の指導者習近平」と報道
これもハッカーの仕業だとされており、もちろんすぐに削除されている。しかし既に遅し。全世界に転載されてしまった。
「無界新聞」というのは、2015年3月、財訊メディアグループと新疆ウィグル自治区およびアリババグループの三者によって創立された新メディアだ。CEOは欧陽洪亮という、まだ若い男性で、彼はもともと雑誌『財経』の記者をしていた。『財経』の親会社が財訊メディアグループだ。したがって無界新聞は欧陽洪亮が中心となって起こした新メディアということになるが、なぜ新疆ウィグル自治区と提携したかというと、新疆ウィグル自治区の書記・張春賢の妻で中央テレビ局のキャスターであった李修平氏と欧陽洪亮は親しい関係にあったからだ。
そこで新疆ウィグル自治区に白羽の矢が当たったのだが、ここは「一帯一路」の拠点の一つ。昔から新シルクロード経済ベルトの石油パイプラインの拠点として、中央アジア五カ国を結んでいる。
アリババのCEO馬雲氏は、習近平国家主席と微妙な関係にあることを、2015年12月13日付けの「アリババが香港英字紙買収――馬雲と習近平の絶妙な関係」に書いた。微妙なというのは、令計画が「西山会」で逮捕されたように、馬雲も実は「江南会」を結成していた。しかし、窮地に追いやられ危機を感じ取った馬雲は、変わり身早く、「江南会」を「湖畔大学」に変身させ、私立の「創業者のための大学(専科)」を設立し、習近平の望む方向にネット業界、特に言論業界を動かし始めた。だから、「一帯一路」に関しても習近平が喜ぶように新疆ウィグル自治区を拠点にウェブサイトを立ち上げようとしたわけである。
ところが、その「無界新聞」でこのような公開状が出たということは、習近平にとっては、「絶対に!」許されないことである。
おまけに3月8日、新聞記者の「習近平政権を支持しますか?」という質問に対して、新疆ウィグル自治区の張春賢書記は「その話は、又にしましょう」と回答している。
前代未聞の回答だ。
新疆ウィグル自治区は石油王だった周永康の地盤だった。
果たしてこれら一連の動きは、単なる「ハッカー」の問題とみなしていいのだろうか?
中宣部の中に何かがあるのか、あるいはネットユーザーの中に「習近平政権打倒」あるいは「共産党一党支配体制打倒」を狙う勢力があるのか?
中国国内にも、この二つの「ハッカーが起こした記事」を見てしまったネットユーザーが少なくない。
不穏な動きの中、3月14日、両会の一つの全国政治協商会議は閉幕され、16日には全人代も閉幕して、2016年の両会が終わる。
張春賢書記の運命や、いかに――?
真犯人はいったい誰なのか――?
そして何よりも、習近平政権のゆくえはどうなるのか。目が離せない。
追記:なお、冒頭にある「中国最後の指導者」に関しては、新華社はその後、「中国最高の指導者」の誤記であったとして謝罪し、「最後」を「最高」に修正した記事を再度配信しているが、もしこれが誤記だとすれば、前代未聞だ。全人代という最もデリケートな時期に、ただ単なる「誤記」が生じるとは思いにくい。「無界新聞」も含め、何かが起きているのではないのか。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。