フロリダ原発の周辺住民が怯える「フクシマ」の悪夢
放射性物質の漏出を機に高まるターキーポイント原発の危険な老朽化と立地問題
高まる不安 フロリダ州南部の国立公園ビスケーン湾にも放射性物質が Carlo Allegri-REUTERS
来週15日のフロリダ州予備選を目指して共和党の各候補者が集結するマイアミでは今週、不穏なニュースが話題になった。50キロに渡ってサンゴ礁が広がり、国立公園にもなっている州南部沿岸のビスケーン湾に、放射性物質が漏出しているというのだ。
今週公表された調査報告書によると、湾内で通常の200倍のレベルの放射性物質トリチウムが検出された。沿岸部ホームステッド郡にあるターキーポイント原発から放射性物質が漏出している可能性が高い。70年代に建設されたこの原発は、90万人のフロリダ州民に電力を供給している。
検出されたレベルのトリチウムなら、人体に害はない。それでも原発の危険性、とりわけ原発事故への恐怖は広がりつつある。ターキーポイント原発は湿地帯にあり、海水面の上昇で被害を受けやすい。東日本大震災で津波に襲われた福島の原発事故を思い起こさせる。
「フクシマみたいな事故は十分あり得るし、恐怖を感じる」と、原発から北に約22キロのパインクレスト市のシンディ・ラーナー市長は言う。「もともとは原発に反対ではなかった。しかしフクシマで事故が起きた時、アメリカ政府は原発から約80キロ圏内にいたアメリカ市民全員に緊急避難を呼び掛けた」。
だがターキーポイント原発で事故があった場合、今の避難計画は約16キロ圏内のエリアに限られている。
マイアミ周辺地域では、環境学者が警鐘を発する悪夢のシナリオの兆候が既に見られる。海水面の上昇で、徐々に道路やその他のインフラに傷みが出てきているのだ。
今世紀末までに、この地域の海水面は約180センチ上昇するとみられている。しかし本誌が今年1月に報じたように、沿岸自治体は州議員や連邦議員からほとんど見放されており、対策はほとんど進んでいない。
間違った場所にある原発
アメリカの原発の安全を監督する原子力規制委員会(NRC)の広報担当者は本誌の取材に対し、検出されたトリチウムは有害なレベルには達しておらず、飲用水の基準の5分の1に過ぎないと回答した。しかしNRCは、今後原発と共同で漏出元を特定する、と言っている。
地元有識者は、トリチウムの検出レベルの上昇は、原発の廃水を冷却するシステムの老朽化を示唆しているのではないか、と指摘する。ビスケーン湾内で検出されるトリチウムに加えて、原発から約6キロ西側の地下水からは、冷却用水路から漏れ出した温かい塩水が見つかっている。
この温水は、既にかなりの環境破壊が進んでいるエバーグレーズの淡水域を脅かしている。冷却用水路の周辺に生息する「アメリカワニは温水でうだっている」と、ラーナー市長は言う。
サウスマイアミ市のフィリップ・ストッダード市長(フロリダ国際大学の生物科学教授でもある)は、特に海水面の上昇を考慮すると、ターキーポイント原発は単純に間違った場所にあるという。「海水面が上昇すれば、島などが水没して荒天時の高潮から防御するものは無くなる。ここは原発を建設するのに適していない。エバーグレーズとビスケーン湾の中間、半島の付け根に位置し、住民の避難は困難だ」