最新記事

原発

フロリダ原発の周辺住民が怯える「フクシマ」の悪夢

放射性物質の漏出を機に高まるターキーポイント原発の危険な老朽化と立地問題

2016年3月11日(金)17時37分
ニナ・バーリー

高まる不安 フロリダ州南部の国立公園ビスケーン湾にも放射性物質が Carlo Allegri-REUTERS


 来週15日のフロリダ州予備選を目指して共和党の各候補者が集結するマイアミでは今週、不穏なニュースが話題になった。50キロに渡ってサンゴ礁が広がり、国立公園にもなっている州南部沿岸のビスケーン湾に、放射性物質が漏出しているというのだ。

 今週公表された調査報告書によると、湾内で通常の200倍のレベルの放射性物質トリチウムが検出された。沿岸部ホームステッド郡にあるターキーポイント原発から放射性物質が漏出している可能性が高い。70年代に建設されたこの原発は、90万人のフロリダ州民に電力を供給している。

 検出されたレベルのトリチウムなら、人体に害はない。それでも原発の危険性、とりわけ原発事故への恐怖は広がりつつある。ターキーポイント原発は湿地帯にあり、海水面の上昇で被害を受けやすい。東日本大震災で津波に襲われた福島の原発事故を思い起こさせる。

【参考記事】仏核施設爆発で政府は火消しに躍起

「フクシマみたいな事故は十分あり得るし、恐怖を感じる」と、原発から北に約22キロのパインクレスト市のシンディ・ラーナー市長は言う。「もともとは原発に反対ではなかった。しかしフクシマで事故が起きた時、アメリカ政府は原発から約80キロ圏内にいたアメリカ市民全員に緊急避難を呼び掛けた」。

 だがターキーポイント原発で事故があった場合、今の避難計画は約16キロ圏内のエリアに限られている。

 マイアミ周辺地域では、環境学者が警鐘を発する悪夢のシナリオの兆候が既に見られる。海水面の上昇で、徐々に道路やその他のインフラに傷みが出てきているのだ。

 今世紀末までに、この地域の海水面は約180センチ上昇するとみられている。しかし本誌が今年1月に報じたように、沿岸自治体は州議員や連邦議員からほとんど見放されており、対策はほとんど進んでいない。

間違った場所にある原発

 アメリカの原発の安全を監督する原子力規制委員会(NRC)の広報担当者は本誌の取材に対し、検出されたトリチウムは有害なレベルには達しておらず、飲用水の基準の5分の1に過ぎないと回答した。しかしNRCは、今後原発と共同で漏出元を特定する、と言っている。

 地元有識者は、トリチウムの検出レベルの上昇は、原発の廃水を冷却するシステムの老朽化を示唆しているのではないか、と指摘する。ビスケーン湾内で検出されるトリチウムに加えて、原発から約6キロ西側の地下水からは、冷却用水路から漏れ出した温かい塩水が見つかっている。

【参考記事】アメリカ「最も汚い核施設」の実態

 この温水は、既にかなりの環境破壊が進んでいるエバーグレーズの淡水域を脅かしている。冷却用水路の周辺に生息する「アメリカワニは温水でうだっている」と、ラーナー市長は言う。

 サウスマイアミ市のフィリップ・ストッダード市長(フロリダ国際大学の生物科学教授でもある)は、特に海水面の上昇を考慮すると、ターキーポイント原発は単純に間違った場所にあるという。「海水面が上昇すれば、島などが水没して荒天時の高潮から防御するものは無くなる。ここは原発を建設するのに適していない。エバーグレーズとビスケーン湾の中間、半島の付け根に位置し、住民の避難は困難だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中