最新記事

全人代

国有企業改革が本当はできない中国――大切なのは党か国か人民か?

2016年3月10日(木)19時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

全人代開幕のスクリーンに映し出された「紅い皇帝」習近平 Jason Lee-REUTERS

 全人代の最大の課題は、中国が本気で国有企業の構造改革ができるか否かにある。もし徹底させれば、それは一党支配体制崩壊につながる危険性があるため、中国にはできない。党の存続を優先する中国の矛盾を読み解く。

中国の国有企業は民営化と逆方向に動いている

 3月6日付の本コラム「習近平政権初の五カ年計画発表――中国の苦悩にじむ全人代」で、「真に改革開放を深化させ構造改革を断行して新体制を作れば、それは一党支配体制の崩壊へと行きつくので、本当の意味での構造改革も新体制構築も、実はできない。そこには根本的内部矛盾と中国の限界がある」と書いた。

 これに関してもう少し具体的に説明をしたい。

 改革開放前まで、中国の企業は原則として全て国営だった。「五星紅旗」丸抱えで運営してきたので、改革開放後は市場経済の競争には勝てず、多くが倒産。1992年に所有権と経営権の両方を持つ「国営企業」を、所有権だけ国に残して経営権は企業に移して、それを「国有企業」と称することにした。

 しかしそれでも、今でいうところのゾンビ企業が溢れ、とても国際競争になど参入できない状態だったので、1990年代後半、時の朱鎔基首相が果敢な「痛みを伴う決断」をして、20万社近くあった企業を10万社強まで減らして3000万人におよぶレイオフ(業績回復時の再雇用を条件に従業員を一時的に解雇すること。自宅待機失業者)を出した。それでもこの改革により2001年にはWTO(世界貿易機関)加盟に成功し、国有企業は国際競争力をつけるため民営化の方向に動くはずだった。

 ところが、時の江沢民国家主席は「それでは"旨み"がない」ということで、1998年に「国有企業の人事に関しては中共中央組織部が決定し、国有企業の中に党組織を設置する」ことを決めたのである。国が放棄したはずの経営に関しては多くの行政部門が関与していたので、効率が悪く責任の所在も明確ではない。2003年3月の全人代で、時の胡錦濤国家主席が国有企業に関与する行政を一元化して「国務院国有資産監督管理委員会」を設置したが、時すでに遅し。腐敗の温床が出来上がるのに時間はかからなかった。

 習近平政権になってから、その腐敗にメスを入れるべく「虎もハエも同時に叩く」という激しい反腐敗運動を断行し、2015年9月13日に「国有企業改革を深化させる指導意見」を発布したのだが、その内容はまるで「ミイラ取りがミイラになる」ようなものであった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中