最新記事

全人代

国有企業改革が本当はできない中国――大切なのは党か国か人民か?

2016年3月10日(木)19時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 すなわち、「国有企業内の腐敗の温床を厳格に監督するために、国有企業内における党の指導力を高める」という内容になっているのだ。そこに書かれている具体的な文言を列挙してみると、たとえば、

1. 国有企業への党の指導を強化する。

2. 党の指導と企業統治(コーポレート・ガバナンス)を統一させる。

3. 党活動の総体的な要求を、国有企業規定に書き入れ、国有企業・党組織の、国有企業・法人統治機構内における法的地位を明確に社規に明示すること。

などである。

 これでは国有企業の民営化から遠ざかるだけでなく、市場のメカニズムに委ねて「構造改革を行い、新体制を作る」ことなど、とてもできるはずがない。むしろ、言葉(スローガン)とは裏腹に、「党の権限を強化する方向」にしか動いてないのだ。

 ここに新たな腐敗の巣が生まれないという保証はない。党の権限が強くなれば、というか、権限を独占的に持っている者がいれば、そこに必ず腐敗の温床が出来上がるのが中華文明の常だ。 

党が大切なのか、国あるいは人民が大切なのか?

 現在中国には100社強の「央企」(ヤンチー)と呼ばれる、中央が管轄する大型国有企業と、地方人民政府が管轄する10万社以上の中小国有企業が乱立している。これらの構造改革と民営化(民への開放と透明化)なしに、中国の安定した経済成長は望めない。

 そのこと自体は習近平政権も分かっており、だからこそ盛んに「構造改革による新体制の構築」を謳ってはいる。

 2014年7月、習近平政権は6社の「央企」に民間資本導入を試験的に実施させると宣言した。これを「混合所有制」と称するが、実はこれがまた曲者(くせもの)なのだ。

 何のことはない、「央企」という親会社は(国有として)傷つけずにそのまま温存しておいて、その傘下に株式会社のような子会社をぶら下げ、それを上場させるだけなのである。上場した会社に関しては、一定制限を設けて民間人がその株を買っていいことになる。それも絶対に50%以上は開放しないので、「国有」形式は安全に保たれる。

 中国共産党は何を怖がって、そんなに国有企業の権限を握っていたいのか?

 それは「お金が欲しい」ということではなく、それもあろうが、中国経済の屋台骨である国有企業、特に「央企」を掌握することによって、「党が国家経済を掌握している」という状態を保っていたいのだ。

 もっとストレートに言うならば、「国家経済」というよりも、「党が国を掌握していたい」ということである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中