支援物資を高値で売るシリア政権の「戦術」
停戦発効後もISIS掃討を口実に攻撃が続き、住民は空爆と兵糧攻めに苦しむ
兵糧攻め アサド政権はその支配地域で戦闘員も非戦闘員も飢える無差別攻撃を行っている Abdalrhman Ismail-REUTERS
シリアのアサド政権とロシア軍は民間人を相手に戦争を仕掛けてきた。その武器はミサイルや樽爆弾にとどまらない。経済的な武器でも人々を締め上げてきたことは、シリア北東部の都市デリゾールのここ数カ月の状況を見れば明らかだ。
ロシア軍は1月15日、デリゾールの2つの地区に6箱の人道支援物資を空から投下した。この2地区はシリア政府軍の支配下にあるが、1年余りにわたってテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)に包囲されている。
ロシアのニュース専門局ロシア・トゥデーは、ロシア軍参謀本部のセルゲイ・ルドスコイの声明を伝えた。それによれば、ロシア軍はイリューシンIL78輸送機で数回にわたり22トンの支援物資を投下、物資は包囲された地区で住民に配布されるという。
だが実際には、シリア政府軍第137旅団がすぐさま投下地点に駆けつけ、政府関連施設に支援物資を運び込んだ。
アサド政権は物資を仕分けして住民に配布するためだと説明したが、政府軍は仕分けを終えるとすぐに物資を目抜き通りに運び、法外な値段をつけて食料品を売り始めた。
サーディン200グラムが1200シリア・ポンド(約20ドル)、砂糖1キロが7000シリア・ポンド(約112ドル)、鶏肉ハム150グラムが1600シリア・ポンド(約26ドル)といった具合だ。
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国連は2月、シリア赤新月社のデリゾール支部が配布できるよう、市内に21トンの支援物資を投下することを決定した。この作戦にはリスクが伴い、クレートが途中で破損したり、赤新月社が入れない地点に落下する可能性があることも考慮した上だった。
赤新月社はツイッターで物資を無事に受け取ったと報告した。だがデリゾールで活動する人権団体ジャスティス・フォア・ライフ監視団によると、国連の投下した21のクレートのうち、4箱はひどい損傷を受け、7箱は赤新月社が入れない地点に落ち、残りの10箱も誰が受け取ったか確認できていないという。
シリアの人々にとっては、赤新月社と国連の発表がくい違うことは驚くに当たらない。赤新月社は政権に「借り」があるというのが、多くのシリア人の見方だ。
アサド政権が反政府派の支配地域を兵糧攻めで落とそうとしているのは明らかだ。このやり方では、戦闘員だけでなく民間人も飢餓と物資不足に苦しむことになる。武装・非武装はおろか、政権支持か反政府派かも問わない無差別攻撃だ。
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この戦術について、ジョン・ケリー米国務長官は声明で、シリア政府軍に包囲され、餓死者も出たと見られるダマスカス郊外のマダヤを例に挙げ、「マダヤの悲劇が唯一のケースではない」と、アサド政権の戦争犯罪を非難した。
「昨年の年明けから、国連は支援物資を配るようシリア政府に113回要請した。あきれたことに、実際に配ったのは13回だけだ。その間に人々は死に、子供たちは苦しんでいる。戦闘に巻き込まれたからではなく、『降伏か、餓死か』という意図的な戦術のために」と、ケリーは語った。