その難民はなぜ死んだのか、入管収容所の現実
入国者収容所の運営を監視する機関として、法務省は2010年に、法曹関係者、医療関係者、学識経験者、NGO関係者など10人からなる「入国者収容所等視察委員会」を東日本、西日本にそれぞれ1つずつ設けた。視察委員の氏名は非公開で、各委員には視察内容などについて「守秘義務」がかかる。ニクラスの事案は、死亡の2週間後、同委員会に報告された。
ロイターの取材によると、委員会は資料の分析などを行い、昨年7月、施設側の対応を「不適切」とする文書を東京入国管理局長に提示した。
その中で、同委員会は、救命治療を訴えたニクラスへの対応について、「職員は重篤性の判断を誤り、直ちに救急搬送しなかったことから、死亡という結果を回避する機会を失ったものと思われる」と指摘。さらに「被収容者の生命を守るべき施設として、不適切な対応があったと言わざるを得ない」との判断を示している。
法務省の鳥巣専門官は「不適切な対応というのがどういうものか、個別にみると難しい」とし、「同じことが起こらないようにするためにも、医療体制やさまざまな面での強化、改善を今後も続けていくとしか言えない」と話している。
それ以前からも、同委員会は法務省に対し、入管収容施設の医療体制を改善するよう、毎年のように提言している。
昨年3月12日付の「東日本入国管理センターの医療問題に関する意見書」では、14年3月に死亡したイラン人男性とカメルーン人男性のケースを含む3例を取り上げ、施設内の診療や外部医療機関での受診を希望しても実現には時間がかかる、などと指摘。常勤医師の雇用に向け最大限の努力をすることなど、「受診の要否を判断するシステムなどを見直すことなどにより、改善が図られるべきである」と強調している。
昨年5月には、前視察委員1人が、当時の上川陽子法相あてに書簡を書き、現役の視察委員1人とともにそれを直接手渡して、医療体制の改善を求めた。
ロイターが取材した8人の現役および元視察委員の全員が、収容施設の医療システムは不十分だと述べた。さらに、多くが常勤医師の確保など改善への提言が実現されていないことに不満を示した。
実際に、職員に対する新たな研修の実施、2名の警備官に准看護士の資格取得を指示するといった措置以外、根本的な改革はなされておらず、ニクラスの死から1年3カ月経った現在でも、全国に17ある収容施設のうち、常勤医師がいる施設はまだない。
「闇に葬られる可能性」
ニクラスが死亡する2週間前の11月7日には、日弁連も別のケースに関する独自調査に基づき、入管収容施設の現状について「医療を受ける権利を侵害したものとして、人権侵害行為があったというべき」とする見解を当時の上川法相あてに提出した。