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その難民はなぜ死んだのか、入管収容所の現実

2016年3月9日(水)10時52分

 その中で同省は「本人が不調を訴えているとき、既に心筋梗塞もしくはその切迫状態にあったと思われ、医療機関に連れて行くことが必要であった」としながらも、「対象者の行動や顔色等からは、その時点において、こうした病状にあると明確に判断することは困難を極める」と指摘。さらに、彼の訴えが警備官に十分に伝わらなかった理由として、「通訳に同収者(他の被収容者)を利用し、同人が正確な通訳をしなかった」ことを挙げている。

 隔離室に移された後のニクラスについては「9時33分以降、身体の動きは一切なし」とし、「(警備官は)本人が横になった後、容態が落ち着いて就寝したものとの思い込みから、以降、声かけや呼吸の確認等を実施せず、就寝姿勢が変わらないことにも気付かなかった」と説明している。

 ロイターの取材に対し、入国管理局警備課の鳥巣直顕法務専門官は昨年10月、当時の東京入管の対応について「重大な落ち度はなかったと考えている」との判断を示した。

 警備官がニクラスの訴えを理解していたかどうかについて、同専門官は「胸が痛いというのは理解していた」としながらも、「落ち着かせれば、おさまるのだろうという判断だったと思う。救急車を呼ぶまでの重篤な症状ではなかったという認識だった」と振り返った。

 彼の遺体を解剖した東京医科歯科大学の上村公一医師は、この事案については事件性のない通常の解剖事案とは異なり、法務省から鑑定書を書くよう依頼があったと明かした。さらに入管側が改善すべき点についても、医師としての意見を書き添えるよう要望されたという。

 同医師は、法務省がこのケースを特別扱いにした理由について、ニクラスへの医療が適切に行われず、病気が悪化した可能性がかなり高いと判断したからではないか、と話す。

 同医師自身も、彼の様子をとらえたモニターカメラの映像を確認し、画像は良くなかったものの苦しんでいる様子はわかったと指摘。入管側の対応は遅く、収容施設の医療全般についても「かなり不十分」との見方をしている。

実現していない再三の改善勧告

 日本で不慮の死をとげたニクラスのケースは、遺族にすら十分な説明がないまま、過去の出来事になりつつあるかに見える。

 だが、緊急の救命医療を求めたニクラスに対し入管側の配慮に不備はなかったか、さらにこうした事態を未然に防ぐ対策を当局は十分にとっていたのか、さまざまな問題はなお残っている。

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