最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

ボストンのリベラルエリートが、サンダースを支持しない理由

2016年3月8日(火)16時30分
渡辺由佳里(エッセイスト)

 ケンブリッジ市は、ハーバードやMITのキャンパスがある世界的に有名な学術都市だ。住民には、学生や学者が多い。そして、ケンブリッジに住んでいたリベラルな学者たちが自然を求めて1960代以降に移住したのがレキシントン町だ。レキシントン町の住民には、言語学者ノーム・チョムスキー、ノーベル平和賞受賞者のヘンリー・エイブラハム、ウェブの発明者であるティム・バーナーズ=リーなどの知識人が多く、住民の多様性と教育を重視する点で、2つの地域には多くの共通点がある。思想的にはサンダースに近い住民が多いはずだ。

 予備選の前に、ボストン周辺の住民に話を聞いた。

 サンダースの支持者は、いずれも非常に情熱的だ。そして、その興奮を他の人と分かち合いたい、という気持ちが強い。

 ある60代の女性は、サンダースのラリーにでかけ、すっかりファンになってしまったという。個人事業の経営者だった彼女は、現在は無職で、大邸宅を売り、生活を以前より切り詰めているらしい。子どもの学費ローンもまだ残っているようだ。

「オバマケアには救われたけれど、それではまだ足りない。バーニー(サンダース)は、すべての人が医療を受けられるようにしてくれるだろう」と熱心に語った。「大学に行きたくても、お金がなくて行けない子はいっぱいいる。その子たちのために無料で行ける公立大学を作るべき」という彼女の意見も、若いサンダース支持者の意見と一致する。

 2008年には「オバマではなく、ヒラリーが大統領になるべき!」と強く語っていたある害虫処理業者の男性は、今回は「ウォール街の連中が金を独占するのは許せない」とサンダース支援に乗り換えた。彼のように収入格差に不満を持つ労働者の人々は、前回は「庶民の味方」であるヒラリーに投票したが、今回はサンダースの支持にまわっている。彼らの選択の基準が、「自分の生活を良くしてくれそうな人」だからだ。

 若いサンダース支持者はもっと理想的だ。バーニーは、アメリカ社会を根こそぎ変える革命を起こしてくれると信じている。以前も別の記事 で書いたが、サンダースに過剰な肩入れをする傾向があり、「ヒラリーは嘘つき」「ウォール街で演説して金を受け取っている」といったヒラリーへの個人攻撃や中傷も出てくる。

【参考記事】サンダース旋風の裏にある異様なヒラリー・バッシング

 だが、ヒラリーの支持者からは、老若男女ふくめてサンダース個人への中傷や非難はない。ほとんどが「サンダースも好きだ」という。そこがまず大きな違いだ。

 共和党候補を含めて、全員のイベントに参加して比べたという社会人の若者2人も、サンダースは好きだと言っていた。しかし「現実を最も良く理解し、具体的な対策を持っているのはヒラリーだという結論に達した」と話していた。

pereport160308-02.jpg

民主党のイベントでヒラリーの娘チェルシーにサインをもらう若者たち(筆者撮影)

 あるIT企業のCEOで40代後半の男性は、「バーニーは好きだし、彼が実現したい北欧のような社会保障は素晴らしいと思う。しかし、そのためには北欧なみに税金を上げる必要がある。でも、それはアメリカという国や国民性にはあっていないと思う。良くも悪くも、アメリカはこういう国だからこそ、起業家が生まれ、アップルやフェイスブックが生まれるのだから」と説明して、バーニーよりヒラリーのほうが国にとって良い選択ではないか、と話していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中