ボストンのリベラルエリートが、サンダースを支持しない理由
ケンブリッジ市は、ハーバードやMITのキャンパスがある世界的に有名な学術都市だ。住民には、学生や学者が多い。そして、ケンブリッジに住んでいたリベラルな学者たちが自然を求めて1960代以降に移住したのがレキシントン町だ。レキシントン町の住民には、言語学者ノーム・チョムスキー、ノーベル平和賞受賞者のヘンリー・エイブラハム、ウェブの発明者であるティム・バーナーズ=リーなどの知識人が多く、住民の多様性と教育を重視する点で、2つの地域には多くの共通点がある。思想的にはサンダースに近い住民が多いはずだ。
予備選の前に、ボストン周辺の住民に話を聞いた。
サンダースの支持者は、いずれも非常に情熱的だ。そして、その興奮を他の人と分かち合いたい、という気持ちが強い。
ある60代の女性は、サンダースのラリーにでかけ、すっかりファンになってしまったという。個人事業の経営者だった彼女は、現在は無職で、大邸宅を売り、生活を以前より切り詰めているらしい。子どもの学費ローンもまだ残っているようだ。
「オバマケアには救われたけれど、それではまだ足りない。バーニー(サンダース)は、すべての人が医療を受けられるようにしてくれるだろう」と熱心に語った。「大学に行きたくても、お金がなくて行けない子はいっぱいいる。その子たちのために無料で行ける公立大学を作るべき」という彼女の意見も、若いサンダース支持者の意見と一致する。
2008年には「オバマではなく、ヒラリーが大統領になるべき!」と強く語っていたある害虫処理業者の男性は、今回は「ウォール街の連中が金を独占するのは許せない」とサンダース支援に乗り換えた。彼のように収入格差に不満を持つ労働者の人々は、前回は「庶民の味方」であるヒラリーに投票したが、今回はサンダースの支持にまわっている。彼らの選択の基準が、「自分の生活を良くしてくれそうな人」だからだ。
若いサンダース支持者はもっと理想的だ。バーニーは、アメリカ社会を根こそぎ変える革命を起こしてくれると信じている。以前も別の記事 で書いたが、サンダースに過剰な肩入れをする傾向があり、「ヒラリーは嘘つき」「ウォール街で演説して金を受け取っている」といったヒラリーへの個人攻撃や中傷も出てくる。
【参考記事】サンダース旋風の裏にある異様なヒラリー・バッシング
だが、ヒラリーの支持者からは、老若男女ふくめてサンダース個人への中傷や非難はない。ほとんどが「サンダースも好きだ」という。そこがまず大きな違いだ。
共和党候補を含めて、全員のイベントに参加して比べたという社会人の若者2人も、サンダースは好きだと言っていた。しかし「現実を最も良く理解し、具体的な対策を持っているのはヒラリーだという結論に達した」と話していた。
あるIT企業のCEOで40代後半の男性は、「バーニーは好きだし、彼が実現したい北欧のような社会保障は素晴らしいと思う。しかし、そのためには北欧なみに税金を上げる必要がある。でも、それはアメリカという国や国民性にはあっていないと思う。良くも悪くも、アメリカはこういう国だからこそ、起業家が生まれ、アップルやフェイスブックが生まれるのだから」と説明して、バーニーよりヒラリーのほうが国にとって良い選択ではないか、と話していた。