最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

ボストンのリベラルエリートが、サンダースを支持しない理由

2008年の予備選でオバマを支持したボストン近郊の左派知識層は今回ヒラリー支持に変わっている

2016年3月8日(火)16時30分
渡辺由佳里(エッセイスト)

変わる判断基準 今月1日のマサチューセッツ州予備選では接戦の末にヒラリーが勝利した Jonathan Ernst-REUTERS

 3月1日の「スーパーチューズデー」で、マサチューセッツ州の民主党予備選は激しい接戦になった。

 直前の世論調査ではヒラリー・クリントンのほうがバーニー・サンダースよりも有利と出ていたが、近年、世論調査の数字はあまり信用できなくなってきている。世論調査のほとんどは自宅へかける電話調査だが、それに応じられるのは、専業主婦か引退した高齢者くらいだ。現代のアメリカの若者は、スマートフォンだけしか持たず、自宅に電話がない。だから、伝統的な調査方法には若者の意見がほとんど反映されていない。一方で、調査対象を抽出しないネットの世論調査があてにならないのは言うまでもない。

 選挙予測の専門家たちは、こうした時代の変化に対応し、近年ではフェイスブックやツイッターを分析している。フェイスブックの「いいね!」の数では、マサチューセッツ州では圧倒的にサンダースが有利だった。

 それだけでなく、マサチューセッツはサンダースに有利な条件が揃っていた。先月の予備選でサンダースがヒラリーに20 ポイントの差をつけて圧勝したニューハンプシャー州やバーモント州に隣接し、ほぼ「地元」と言えること。そして、米世論調査企業ギャラップ社によると、マサチューセッツはサンダースの地元バーモントの上を行く、「全米でもっともリベラルな州」である 。ハーバー大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)を筆頭に有名大学が多く、サンダースの支持基盤である大学生の活動が盛んだ。

 サンダース陣営は勝利を確信していたし、ヒラリー陣営も選挙当日に「マサチューセッツで勝つことは期待していない」とメディアに答えていたくらいだ。ところが、90%以上開票されても「当確」が出ない接戦になり、結果的に50.1%対48.7%という僅差でヒラリーが勝利した。

 なぜサンダースは、マサチューセッツ州でヒラリーに勝てなかったのか?

【参考記事】トランプ勝利で深まる、共和党「崩壊の危機」

 今回の選挙結果の詳細 を、オバマとヒラリーが激しく争った2008年の予備選の選挙結果を比較してみると、あることに気付く。2008年にオバマを選んだボストンとその近郊が、今回はヒラリーを支持していたのだ。8年前にヒラリー支持だった地域はサンダース支持に、オバマ支持だった地域はヒラリー支持にシフトしている。これは、今回の予備選で有権者の選択が変化したことを示している。

 目を引くのは、リベラルなマサチューセッツの中でも、特に「リベラル」として知られているケンブリッジ市とレキシントン町だ。2008年の予備選では、州全体ではヒラリーが勝っているのだが、この2つの地域では、「若き改革者」のオバマを選んでいた 。ところが、今回はサンダースではなくヒラリーを選んでいる。しかも、レキシントン町では37ポイントもの大差が付いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相、あす午前11時に会見 予算の年度内成立「

ワールド

年度内に予算成立、折衷案で暫定案回避 石破首相「熟

ビジネス

ファーウェイ、24年純利益は28%減 売上高は5年

ビジネス

フジHD、中居氏巡る第三者委が報告書 「業務の延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中