【再録】J・K・ローリング「ハリー・ポッター」を本音で語る
取材嫌いだった超売れっ子作家を、シリーズ第4作が刊行され、第1作の映画の撮影開始前だった2000年夏にインタビューした貴重な記録
「ファンタジー小説はあまり好きじゃない」 J・K・ローリングは失業中のシングルマザーだったが、97年に著した『ハリー・ポッターと賢者の石』が大ヒット、その後シリーズは世界的ベストセラーになった。ニューズウィークは2000年、シリーズ第4作の刊行に合わせて抜粋の掲載と、ローリングの独占インタビューを組み合せた特集を組んだ(2011年撮影) Suzanne Plunkett-REUTERS
ニューズウィーク日本版 創刊30周年 ウェブ特別企画
1986年に創刊した「ニューズウィーク日本版」はこれまで、政治、経済から映画、アート、スポーツまで、さまざまな人物に話を聞いてきました。このたび創刊30周年の特別企画として、過去に掲載したインタビュー記事の中から厳選した8本を再録します(貴重な取材を勝ち取った記者の回顧録もいくつか掲載)。 ※記事中の肩書はすべて当時のもの。
※このインタビューを行った記者の回顧録はこちら:【再録】J・K・ローリングはシャイで気さくでセクシーだった
[インタビューの初出:2000年8月2日号]
この冬、日本中の子供たちを楽しませた映画『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』。シリーズ第4作となるその原作本がイギリスで発売されたのは、00年夏だった。本誌のマルコム・ジョーンズがそのとき、あまり人前に出たがらない著者、J・K・ローリングをインタビューした(記者の回顧録はこちら)。
この7年前には失業中のシングルマザーだった彼女は、すでに米フォーブス誌の選ぶ「有名人トップ100」の25位にランクインしていた。この年の秋、ワーナー・ブラザースが製作する第1作の映画の撮影が始まった。
――ブームは峠を越した?
さあ。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(第3作)がピークだと思ったけれど、そうじゃなかった。時期が来れば静まるでしょう。映画が沈静化の助けになるとは思えないけれど。
――映画の脚本は完成した?
ええ、9割方。まだ手直ししてるけど。
――映画についての発言権はどれくらいある?
発言権という感じではないわね。意見を求められているのは確かだけど、指図する立場ではない。信頼できる相手だからこそ映画化権を売ったのだし、今のところ信頼は裏切られていない。
キャストは全員イギリス人で考えていて、すべて順調。登場人物に対する思い入れの強さは私が一番ね。映画がうまくいかなければ、傷つくのは誰よりも私だから。
――キャストは決まった?
まだオファーの段階。ハリー役が難航している。スカーレット・オハラの役を、子供版ビビアン・リーを探すようなものよ。
「会えばひと目でピンと来る」って思ってたんだけど、ロンドンでもエディンバラでも、歩いていると、ついキョロキョロしちゃう。運命的な出会いがあったら抱きついてしまうかも。「君、お芝居できる? ちょっと来て!」って。
――今のところ、商品化されたキャラクターグッズは一つもないが、その状況は変わりそうだ。
(うんざりした様子で)まったくねえ。とにかくワーナーは、ものすごい量の情報を送りつけてくる。何度も会議にも呼ばれたし。
子供たちには、企業ではなく、私の望みどおりのグッズを与えてやりたい。(グッズの氾濫を)心配する人たちには、こう言ってあげたい。「どうか私を信じて。私はあなたたちの味方だから」
――最初に想定していた読者は?
私自身。どうしたら子供たちに気に入ってもらえるか、なんて考えたことは一度もない。最初にアイデアがひらめいたときは、そりゃあ興奮したわ。これは楽しくなるぞってね。
実をいうと、ファンタジー小説はあまり好きじゃない。大して読んでないし。『指輪物語』は読んだけど。14歳だったかしら。
ファンタジーを書いていると意識したのは、執筆を始めてかなりたってから。そういうことに鈍いのよ。書くのに夢中だったし。3分の2まで書き終えたところで、ハッとしたの。あら、ユニコーンが出てくる。私、ファンタジーを書いてるんだ、って!
――読者からアイデアをもらうことは?
ない。幼い読者はとても気前がよくて、私に手紙を書いては自作のおかしな言葉を教えてくれる。「使えますか?」って。私の返事は「いいえ。あなたの言葉なんだから、あなたが使いなさい」。
――ファンレターには自分で返事を書くのか。
(しぶしぶ)まあね。こんなことインタビューで打ち明けていいのかどうかわからないけど、個人的に目を通す手紙とそうでない手紙を分けているの。読んだ手紙には、手書きで返事を書く。
ダンブルドア博士(ホグワーツ魔法魔術学校の校長)にあてて、真剣に入学させてくれと訴えてくる子もいる。悲しい手紙も多い。本当の話だと思いたい一心で、いつのまにか実話だと信じてしまった子もいる。そういう手紙には、ちゃんと返事をあげないと。
――6歳の娘さんには『ハリー・ポッター』を読んであげた?
言葉の面では、賢い子なら6歳でも問題ない。でも読み進めていくうちに物語が暗い方向へ向かうから、子供は怖い思いをするかもしれない。だから娘には「7歳になったらね」と待たせていたの。
だけど学校に上がると、周囲がほうっておかなかった。年かさの子供たちにクィディッチがどうのこうのとまくしたてられても、娘はちんぷんかんぷん。仲間はずれはかわいそうだから、一緒に読むことにしたわ。